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【大学研究室Vol.2】<産学連携>金型の先端研究に挑み続ける研究哲学とは?

岐阜大学工学部機械工学科 創造システム工学講座 王研究室研究室には現在30人弱が籍を置く。前列右は、株式会社セントラルファインツールの三宅和彦社長。炭素繊維織物によって強化した樹脂製歯車を共同で開発した


地元企業とタッグを組むことで逃げ場を封じ、金型の先端研究に挑み続ける。
教科書を書き換える研究成果を追求する
副学長(産官学連携担当) 教授 博士(工学) 王 志剛

金型人材の育成に地元産業界も期待

ものづくりの根幹を担う「金型」技術。「もし金型がなければ、例えば鉄の塊からいちいち部品を削り出す必要がある。それでは量産は非効率です」と王志剛氏は言う。

かつては各大学に金型関連の研究室が置かれたが、近年は減少傾向にある。だが岐阜大学は工作機械メーカーからの寄付により最新の設備を整え、世界的にも類を見ないレベルの金型研究を実現させた。なぜなら、この地域は日本有数のものづくりの拠点。金型技術を学んだ人材を産業界は喉から手が出るほど欲しがっている。

「我々の狙いは、即戦力となる金型人材を輩出すること。だから各社、非常に理解があるのです。一口に金型研究といっても、コンピュータ上でシミュレーションするだけではわからない部分がたくさんあります。実際に試作してみて不具合を見つけ、そこから『どうしたら?』と考える作業ほど、学生を鍛えてくれるものはない。おかげで3億円は下らない設備をメーカー各社から寄付してもらうことができました」(王氏)

2015年4月に特許出願した炭素繊維織物によって強化した樹脂製歯車は、その金型技術を応用した成果だ。樹脂製の歯車内に帯状の炭素繊維織物を組み込み、歯車の歯の付け根にかかる応力を弱めることで製品寿命を延ばす。

「まだ実証中ではありますが、理論上は、数十倍レベルに歯車の寿命が延びると考えています。実用にあたっては、金属製の歯車の代替などで軽量化や生産コストの削減につながる可能性が高い」(王氏)

この研究は金型メーカーである株式会社セントラルファインツールとの産学連携により進められた。同社三宅和彦社長が開発過程を振り返る。

「通常、樹脂のなかにインサートするのは、鉄やセラミックスなどの硬いものです。ところが炭素繊維織物は薄くてペラペラ。これでは樹脂内の所定の空間位置にきちっと固定することが非常に難しい。それができるかどうかは金型技術に依存するもので、私たちにとって大きなチャレンジでした。理論面は王先生、私たちは具体的に製作を受け持つという役割分担で、何とかサンプルの完成までこぎつけました」(三宅氏)

「この歯車はかなり突飛なアイデアで、あったらいいなと思う人はいても、実現しようとする技術者はこれまでいませんでした。私も、三宅社長のところに持ち込むまで2社、開発を断られています。三宅社長は突飛な話をキャッチする能力が高いのか(笑)、やってみましょうと言ってくれた」(王氏)

注目の研究
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炭素繊維織物を組み込んだ歯車(上)と、組み込んでいない歯車(下)。王氏は2012年から研究を始め、14年から株式会社セントラルファインツールと連携。国の「サポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)」にも採択され、現在も支援を受けている。「あらゆる動力機械の内部で歯車は使われていますが、なかでも『強度は欲しいが軽量化したい、金属は使いたくない』というニーズがあります。例えば、自動車、介護用ロボットなどでの活用に期待しています」

同業者を驚かせるイノベーションを

研究者の醍醐味とは「教科書を書き換えるような発明をすること」だと王氏は語る。

「常識的には数十回加工しなければ完成しないと思われていた部品が、ある日突然数回の加工で完成するようになる。そういう従来からの延長線上にはない発想を目指したい。これは時間や品質に制約のある企業の研究職よりも大学の研究者のほうがやりやすいと思います。年に1回ぐらいは同業者があっと驚くようなアイデアを出せたらいいですね」(王氏)

つまり必要なのは非連続的なイノベーション。ただし研究室にこもっているだけでイノベーションを手にできるものではない。研究者はアイデアを現実に落とし込む段階で頭を悩ませるのが常だ。王氏が「企業との共同研究が不可欠」と考えるのはそのためでもある。企業と組むことで産業界と密につながり、ものづくりの現場で何が求められているのか、いち早く知ることができるという。

「それから”逃げ場を封じる”意味もあるんですよ。例えば鉄である形をつくろうという時、大学だと鉄が無理ならアルミニウムにしよう、樹脂にしよう、形も変えてしまおうと逃げ道があるのです。でも企業はというと〝鉄でその形.をつくる以外に道がないわけですね。三宅社長のような超一流のプロに揉まれながら逃げずに戦っていく。それが共同研究の一番の楽しみであり大切なところ。教科書を書き換えるような新たな発明も、こういう戦いのなかでこそ生まれてくるのです」(王氏)

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王 志剛
教授 博士(工学)
わん・ずがん/1963年、中国黒竜江省生まれ。ハルビン工業大学卒業。92年、名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程修了。高強度ボルトを扱うメイラ株式会社勤務。97年、岐阜大学へ。型工学、精密塑性加工、トライボロジーに関する研究、教育に従事。日本塑性加工学会学会大賞など受賞多数。

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