新ビジネスを生むシーズを提案する
アサヒグループが傘下に持つアサヒビール、アサヒ飲料、アサヒカルピスウェルネスなど各事業会社は、それぞれ独自の研究所を持つ。一方で、持ち株会社アサヒグループホールディングスも「R&Dセンター」として4つの研究組織を構えている。コアテクノロジー研究所はそのうちの一部門である。
“コアテクノロジー”を標榜しているとおり、アサヒグループの飲料、お酒、食品に広く応用される新素材や新技術の提案が同研究所の使命。だが「会社のほうから『これをやってくれ』と命じられることは少ないのです」と中村康則所長は言う。「これまでにない新しい製品、新しいビジネスを生み出すシーズ=種を我々から発信し、グループの事業を牽引していくことが期待されています。自分が見つけたシーズが、巨大な市場で勝負するアサヒグループのなかで製品化される。このスケールの大きさが魅力ですね」
現在は約70名のメンバーが酵母技術部、乳酸菌技術部、フローラ技術部、素材技術部の4部門に分かれて研究にあたっている。探索テーマの多くが研究者自身の発案によるものだ。「若くて意欲的な研究者が、自分のやりたいことをアサヒのなかで実現してくれたら嬉しい」
製品化に至ったシーズの一例に「LTP(ラクトトリペプチド)がある。「カルピス」の素であるカルピス酸乳には、血圧を下げる効果があることが確認されているが、その機能成分がLTPだ。血管を収縮させ血圧を上昇させる体内物質の生成を阻害し、血圧上昇を抑える働きをする。LTPは発見後直ちに特許化され、特定保健用食品の「アミールS」や機能性表示食品の「アミールWATER」などのヒット商品につながった。
プロジェクトを立ち上げながらシーズ発見に至らないケースも少なくないが「そんなのはごく普通の話。笑い飛ばすぐらいでないといけません」と中村所長。今はだめでも培った技術が5年後10年後に実を結ぶことも十分考えられるのだ。
「そもそも、新しいものをつくり出そうとしたら大半が失敗するものです。ですが多くの種をまくほどビジネス化にたどり着く可能性が高まるのも事実。大切なのはどんどんアイデアを出して行動していくことです。それには個人が絶えずアンテナを張りながら、部内で活発なコミュニケーションをしなくては。話をしながらでないとアイデアは出てこないですから。研究テーマを発案する際は、部門の壁を越えて誰と組んでもいいことにしてあります」
4つのコア技術でトップを目指す
2012年、同研究所はカルピスの研究所と合併している。中村所長はカルピス出身だが「アサヒと一緒になってよかった。新しい環境ですが違和感がありません」と明言する。アサヒによってもたらされたのは、オープンイノベーションを歓迎する土壌だ。海外の大学や企業とも積極的かつ活発なコミュニケーションを行い、共同研究のためアメリカやオランダに滞在しているメンバーも。「もともとアサヒは合併が多い会社です。様々なバックグラウンドを持った研究者が活躍できる懐の深さがあるように思います。前任の所長もニッカ出身の研究者でした」
今後の目標は、「あるジャンルのトップをとること」。
「アサヒの経営理念はお客さまの満足の追求です。お客さまに役立つアイデアであるかどうかを私たちも日々問われている。しかしコアテクノロジーと名付けてもらったからには、4つの技術部それぞれが何らかの一番になりたいですね」
そのためにも、意欲的な研究員を待っている。
「言われたことをやるのではなく、自分でアイデアを考え行動に移せる人がいい。実際、考え続けるのも辛いのですが(笑)、手を挙げれば何でもできる環境です。それからプレッシャーを楽しめる人。自分で手を挙げたテーマほど周りからいろいろ言われるのが常です。データ一つとっても『これでいいのか』とディスカッションを繰り返さないといけない。その時、『これでいいんだ』とアピールできる強さが欲しい。プレッシャーを楽しめる人なら、アサヒの仕事を楽しめるのではないでしょうか」
中村康則 博士(農学)
なかむら・やすのり/1986年、北海道大学薬学部製薬化学科卒業後、カルピス株式会社に入社。研究開発センターに配属される。乳酸菌や発酵産物の機能性研究、腸内フローラ研究に従事。2003年、農学博士号取得(東京大学)。14年、アサヒグループホールディングス株式会社イノベーション研究所所長。16年、コアテクノロジー研究所所長。農芸化学技術賞(日本農芸化学会)ほか受賞多数。
創立/1889年11月
代表者/代表取締役社長兼 COO 小路明善
従業員数/273人(2015年12月末現在)
所在地/東京都墨田区 吾妻橋1-23-1>
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