信念と情熱を内に秘めながら最先端医学に貢献する、次世代の女性研究者
医科学の最先端拠点として、世界トップレベルの研究者が在籍する、東京大学医科学研究所。その中で活躍するのが、柔軟で朗らかな人柄のなかに、医学研究への一途な思いを抱く四谷理沙さん。3歳の男児の母でもある彼女だが、33歳にして6カ所の研究所を渡り歩いてきた稀有な研究者でもある。学生時代から現在のポジションに就いた過程と、「世の中に役立つこと」をモチベーションにしながら日々邁進する姿勢に迫る。
「自分の研究結果が、誰かの役に立つ」を身近に感じた喜び
子供の頃はひとり遊びが好きで、天体に夢中になった時期もあるという四谷さん。
「父は応用物理学科出身で特許の仕事をしていて、母は薬剤師をしています。その影響か、高校時代から理系に進みたい、という思いがありました」
そんな両親の教えは、女性であれ、ひとりでも生活していける力をつけること。栄養士や調理師など食にまつわる仕事にも興味があったが、お茶の水大学付属高校2年生のときの生物の授業がとても面白く、理系一筋になっていったという。
「周囲には医療に興味がある子が多かったのですが、私は実際の治療ではなく、検証や臨床を行うエビデンスに興味を持ったんです。そのためには大学院に行かないと、と思ったのもこの頃です。これと決めたらブレることなく真っすぐ突き進む性格みたいで(笑)」
そして、早稲田大学の人間科学部を専攻。遺伝子による人間や性格の形成など、生物学だけでなく、社会学、家族学、心理学など、多彩な分野の視点から取り組むことで視野が広がるきっかけにも。そこでの経験は、就職してからも活かされている、と感じることが多いと話す。
また、早稲田スポーツ新聞会というサークルにも所属。ボート部、陸上部、テニス部などの試合や大会に同行し、選手に取材。当時在学生だった、ラグビー部・五郎丸歩選手の試合を見て記事を書いたのも思い出のひとつ。研究室で生物と対峙するだけでなく、人とコミュニケーションする喜び、楽しさを実感できたのも大きな利点だ。
「この頃、研究者としての将来を考えたとき、大学院に行き、博士号を取得しなければ、と改めて思ったんです。両親を説得するために、大学を飛び級して3年で卒業し、東京大学院の医学系研究科に入学しました」
そこは、糖尿の治療に応用できるような研究や臨床を行う研究室。ネイチャーに論文を投稿するなど、言わずと知れた世界トップクラスの研究者が在籍。1年目はかなり苦労しつつも、4年で見事に博士号を取得した。
「研究スキルはもちろん、学会発表の論文の書き方や報告書のメールの書き方はここで徹底的に教わりました。相手に送る文章は、円滑に仕事を進めるためには、とても大事なことなんです。また、徹夜などのタイトな作業も多く、体調管理ができるようになったのも利点ですね(笑)」
ここでは、製薬会社と共同研究も経験。A薬会社からの依頼は、糖尿病を改善する健康食品の研究でした。そこで、野菜や果物などから、約2000種の抽出物をスクリーング。さらに、B薬会社からの依頼では、ある種の茶を使った糖尿病の改善研究にも従事。企業とのミーティングから、報告書の作成に至るまで、初めてひとりで取り組んだ研究でもある。
「自分の研究結果が世の中に出て、誰かの役に立つこと」の喜びを身近に感じたのもこのときだ。
国内外6カ所の研究室で得た柔軟性と挑戦し続けるパワー
そして、2011年博士号修了時に結婚。
日本学術振興会の特別研究員では、糖尿病代謝内科で、脂肪細胞分化のメカニズムの研究を、2012年より国立精神・神経医療研究センターにて、脳内のおける物質Cの生成のメカニズムの研究に従事。結婚後も研究者としてのスキルを着実に磨いた。
さらに、ロサンゼルスでの研究会参加をきっかけに、2013年、カリフォルニア州の
City of Hope postdoctoral fellowに入職を決意。生後5カ月の子供と、育児休暇を取得したご主人とともに渡米。ご主人が仕事で先に帰国したあとは、1年間、乳児とともに単身赴任を経験。これまでの経験値が通用すると信じていたことと、アメリカでの子育ては周囲の目が柔らかく、とても恵まれた環境だったと振り返る。
「ある遺伝子の機能の研究をしている教授が私に声をかけてくれた理由は、私がこれまで代謝の研究に取り組んできたこと。その遺伝子が体の中での代謝に対してどういう働きをしているのか明らかにしてほしいということ。アメリカでは、スピードと効率化が必然なんです。2~3カ月ごとにボス(教授)と面接があって、結果を出さないと、給料の昇給・降給、解雇などその場でジャッジされます。その緊張感は常にありましたし、研究と子育てに集中するよい環境だったと思います」
2015年9月に帰国。そして現在、東京大学 医学部研究所の谷憲三朗研究室にてポスドクとして勤務。4~5カ月転職活動を行い、公募サイトを通じて「やりがいのある仕事」に出会えた。
「癌に対するウイルス療法の研究を行っています。臨床研究から患者さんに向けて行っていることが最大の魅力です。研究の経緯の道筋がはっきりしていますし、一連の流れをディスカッションする時間も楽しいんです」と充実の日々。
研究者として12年で海外を含め、6つの研究室に在籍。子育てもしながらも、さらに研究者としての意欲は尽きない。
「生命化学の研究のなかでin vitroとin vivoの両方の実験ができるなどスキルも身に付きましたが、研究室にはそれぞれルールがあって、その中でやっていくことの柔軟性は養われたと思います。常に新しい環境で挑戦していけるパワーが私の強みでしょうか。一生懸命取り組んでいれば、結果はあとからついてくる、と信じているんです」
最後に、四谷さんにとって尊敬できる研究者とは?
「全体を俯瞰して自分の研究の必要なこと、順序、適材適所を瞬時に判断して、マネージメントすることが、それがとても大切だと感じています」
1983年、埼玉県出身。2007年、東京大学院 医学系研究科 内科学専攻。2011年、博士号取得。2013年、米国カリフォルニア州City of Hope postdoctoral fellow入職。2015年同社退職。2016年5月より、東京大学 医科学研究所の谷憲三朗研究室にてポスドクとして活躍中。
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