未解明の余地が残る〝乳〟の研究を柱に
森永乳業は、2016年6月、研究開発体制を一新。独立していた各研究所を、新設した研究本部の下に集結・再編し、より機能的な布陣を構築した。
新組織は今回紹介する「健康栄養科学研究所」のほか、主に一般消費者向け商品開発を担う「食品総合研究所」、素材の技術開発と応用研究などを担う「素材応用研究所」、新素材探索や腸内細菌叢の研究などを行う「基礎研究所」、食品製造装置の開発を担う「装置開発研究所」。そして、品質と安全性確保の分析検査を担う「分析センター」、製品を活用したレシピ開発等を行う「応用技術センター」、各研究所・センターを横串的に統合する「研究企画部」で構成されている。
同社は今、15年度に発表した中期経営計画に取り組んでいる。内容は、①機能性・食品素材事業の強化、②グローバル化の推進、③健康・栄養事業の育成、④既存事業の収益性改善の4本柱で、健康栄養科学研究所の活動はこれらほとんどに深く関与。
起点となるのは主力商品の一つ、調製粉乳(粉ミルク)の開発だ。そして長年、「母乳」を柱に栄養の研究に取り組んできた。
「乳には、まだまだ未解明の部分がたくさん残っています。本当に奥が深い分野なのです」と武田安弘所長は言う。
現在では、調製粉乳はもちろん、高齢者向け流動食、妊産婦や病者向け栄養補助食品、新たな乳幼児向け食品、さらにスポーツをする人向け栄養食品といった、ウェルネス領域の健康・栄養食品の研究開発に幅広く取り組んでいる。また、主にインドネシアの合弁会社で生産している現地向けの調製粉乳などの開発も手がけており、同社の国際事業の一翼を担っている。
積極的に利用現場のニーズを把握
開発商品は基本的に長期間安定的に利用されるものが多い。近年は、少子高齢化のなか、高齢者向け製品のニーズが増加。国内では、30年前2種類だけだったものが、現在では約140種類に急拡大。開発するのは中身だけでなく、パッケージも対象となる。現場のニーズを積極的に把握し、改良を加える”改善的”な仕事も多いのだ。 「例えば、鼻からチューブで摂取する流動食は、病院などの現場で移し替えて使われていましたが、手間がかかるうえに院内感染のリスクがあった。そこで、そのまま使え、おいしさが保たれる無菌充填方式の技術と専用のバッグを世界で初めて開発。本商品は現場でとても喜ばれていますし、当社内では社長賞を受賞しました」
マーケットインの発想を育てるため、研究員は同社製品の利用現場に出向く。「答えは現場に落ちていることが多い。積極的に送り出しています」と武田所長。また、研究員の発想も大切にしている。あるママ研究員は、野菜嫌いの子供に野菜をおいしく摂らせたいと「フルーツでおいしい やさいジュレ」を開発。小さな子供のいる母親を中心に受け、販売好調だ。
「我々の研究開発は、配慮が必要な人々に役立ててもらう食品を開発する、社会的貢献度の高い仕事です。現場から『森永乳業の商品のおかげで元気になれた』という声が聞けた時、大きなやりがいを感じますね」と武田所長は目を細める。
研究開発の本拠地は、充実した設備が整う神奈川県座間市の研究・情報センター。昨年ここに加え、北海道大学内に設けられた「センター・オブ・イノベーションプログラム」の拠点に研究室を常設させた。これは、国が主導する、10年後の目指すべき社会像を見据えた難易度の高い研究開発を支援するプログラムだ。産官学の様々な研究者と交流しながら、新しい研究活動にアプローチできる”場”として期待されている。
ちなみに、所長室には武田氏が考えた「気合と根性、義理と人情、笑顔あふれる明るい職場」という言葉が掲げられている。
「営業っぽいと言われますが(笑)、研究員にも必要な素養だと思っています。特に笑顔が大事。我々が明るくなければ、お客さまに元気を届けるための商品に魂がこもりませんから」
武田安弘
たけだ・やすひろ/1987年3月、宇都宮大学大学院農学研究科修了。同年4月、森永乳業に入社。阪神工場製造部製造課、栄養科学研究所栄養研究室を経て、99年、栄養食品開発室主任研究員。2006年、クリニカル食品開発部部長。12年、栄養科学研究所所長。16年6月より現職。
設立/1949年4月
代表者/代表取締役社長 宮原道夫
従業員数/3023人(2016年3月末現在)
所在地/東京都港区芝5-33-1
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