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【大学研究室Vol.13】電力の発生・輸送に不可欠な大電流技術を進化させ続けることで未来の社会に貢献。 疑問を発見し、解決する能力を養う研究室

注目の大学研究室

東京都市大学 工学部 電気電子工学科
大電流エネルギー研究室
教授 博士(工学) 岩尾 徹

電力の安定供給が、日本の命運を握る

現代社会において「電力」は欠かすことができない重要なエネルギーだ。もし電力が途絶すれば、個人の生活や企業の生産活動だけでなく、国家の行政機能もままならなくなり、それに伴う社会的損失は甚大となる。

幸い、我が国で大規模停電はめったに発生しないが、日本の電力供給システムが盤石なわけではなく、実際には極めてデリケートな基盤の上に成り立っていることはあまり知られていない。
「2010年、愛知県や三重県を中心に、供給電力の電圧が0.07秒ほど低下したことがあります。これにより、某大手メーカーの工場の一部が操業停止を余儀なくされ、その被害額は約200億円とも。たった0.07秒の瞬時電圧低下で、これだけ大きな経済的損失が生じるのです。日本のお家芸であるモノづくりには安定的な電力供給が不可欠なことは明らかで、その意味では、日本の命運は〝電力〞が握っているといっても過言ではありません」

 そう話す東京都市大学工学部の岩尾徹教授は、電力の発生や輸送のプロセス、さらに放電プラズマの応用に不可欠な「大電流技術」を研究する電気のエキスパートだ。同技術は社会的ニーズが極めて大きく、例えば、電力の発生過程では、次世代エネルギー源の開発に向けた超高温プラズマの研究、輸送過程では、スマートコミュニティの構築に向けた系統保護や開閉保護、変電、落雷などの事故対策に関する技術が求められる。さらに、放電プラズマの応用では、循環型社会の実現に向け、金属加工における溶接や切断、廃棄物処理、リサイクル、表面処理技術に対する要請が高まっている。

 岩尾教授の研究室では、基礎研究で培ったこれらの技術を活用して、企業などとの共同研究を積極的に推進。なかでも、電力供給ネットワークの急所といえる「遮断器」の研究では、国内トップを走る存在だ。

 「遮断器は、負荷電流などが生じた時に、系統や設備を守るために電流を遮断する開閉器です。ただ、大電流の場合は電流を遮断しても、アーク放電が発生して遮断器などが損傷する可能性があるため、放電をスピーディに消滅させる必要があります。当研究室では、電磁熱流体シミュレーションを用いたアークの減衰過程の解明、真空遮断器における縦磁界が及ぼす真空アークの拡散現象の解明などに取り組むことで、遮断器の信頼性向上に向けた研究を進めています」

企画からゴールまで、自己完結がモットー

現在、同研究室には34名の学生が在籍している。常々、岩尾教授は学生たちに向けて、「教授の言いなりになるな」という言葉を投げかけているのだという。「指示どおりに実験装置のスイッチを押すだけなら、中学生でもできます。そんな受動的な姿勢ではなく、常に『なぜ?どうして?』という疑問をベースとし、自らクリエイティブに考えて仮説を立て検証していく能動的な姿勢を身につけること。研究者にとって、この姿勢の継続が一番大切だと思うのです」

 岩尾教授がそう説く背景には、自らがトライ&エラーを繰り返しながらキャリアを重ね、専門性を高めてきた経験がある。
 「これまで研究論文を何本も発表してきましたが、過去の自分の論文を読み返してみると、思わず赤面してしまうほどレベルの低いものも。しかし、少なくとも私は自ら試行錯誤し、もがきながら研究や論文作成に打ち込んできたという自負があり、その経験が今になって生きていることを強く実感しています。そこで当研究室でも、1人1テーマを原則とし、企画から実験、論文作成までのフローを自己完結させることを目標に、各学生が自ら仮説とモデルを立て、課題解決能力を養うことができる指導を心がけています」

 その指導の賜物か、同研究室の学生は、岩尾教授曰く「皆、驚くほど優秀」。学会で受賞する学生も多く、また、就職した大手インフラ企業や電機メーカーなどからの評価も高く、「電気工学系の技術者が不足していることもあって、うちの学生は就職市場で引っ張りだこです」。

 岩尾教授の研究と、その〝教え〞を実践した教え子たちが、使命感を持って未来の電力インフラを支える力となっていく。

岩尾教授はこの4月に教授に昇格したばかり。同時に東京都市大学のFD専門委員会委員長や工学部教務委員長に就任し、教育の質保証への取り組みやカリキュラム作成に携わるようになり、さらに電気学会の電力・エネルギー部門の副部門長にも就任する予定。「猫の手も借りたい忙しさです」と岩尾教授

注目の研究

岩尾研究室では、「電力の発生」「電力の輸送」「系統保護」「放電プラズマの応用」「非接触給電」「溶接」など幅広いテーマで「大電流技術」の研究を推進。なかでも、「遮断器」の研究に力を入れ、高い評価を得ている。研究室には、「レールガン」「大気圧アーク用チャンバー」「真空アーク用チャンバー」など、各種放電実験を実施するための装置や計測機器を備え、実験が活発に行なわれている。計測と制御に強みを持ち、電磁熱流体シミュレーションや超高速計測、画像処理等の技術を駆使しながら、社会インフラの基礎中の基礎である大電流技術の向上・進化に寄与。社会に貢献することを目指している。2017年中には、「人工雷発生装置」を導入する計画だという

岩尾 徹
教授 博士(工学)

いわお・とおる/1974年、神奈川県生まれ。2000年、中央大学大学院理工学研究科博士課程後期課程電気電子工学専攻修了。中央大学ポスドク後の01年、日本学術振興会特別研究員(PD)。この間に、テキサステック大学、ミネソタ大学研究員を歴任。04年、武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部電気電子情報工学科講師。09年、東京都市大学工学部電気電子工学科准教授、17年4月より同教授。

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