「コルタナ」は5億台を突破
モバイルファースト、クラウドファーストから、AIファーストへ。AI重視の戦略へとシフトしたマイクロソフトの基本的なスタンスは、ずばり「AIの民主化」である。「限られた企業だけがAIのパワーを使えるという高価なサービスではなく、誰もが手軽に使えるような、身近なサービス展開を考えています」と日本マイクロソフトCTOの榊原彰氏は語る。
同社が展開するAI技術の一部を挙げよう。一つはパーソナルアシスタントの分野だ。「コルタナ」はWindows10などに標準搭載されているパーソナルアシスタント。これまで5億台のデバイス、1000以上のアプリケーションに組み込まれ、130億以上の質問に回答してきた。グーグルホーム、アマゾンエコーなど家庭用音声アシスタントも登場している分野だが、マイクロソフト自身はデバイスを手がけず、サードパーティが自社製品にコルタナを組み込めるSDKを提供する。年内には高級オーディオメーカーのハーマンカードン社がコルタナ搭載のスピーカーを発売予定だ。
ほか人間と会話するチャットボットの技術、画像や音声などの認識系API、機械学習と全方位的な研究開発を行うマイクロソフト。機械学習の技術はクラウドサービス「Azure Machine Learning」を通じて提供している。ブラウザ上でデータや分析手法をドラッグ&ドロップするだけで機械学習のモデル作成が可能。まさしく機械学習の〝民主化〞である。
「ノンプログラミングで非常に使いやすい環境です。データサイエンティストの中には、統計や数学は得意でもプログラムは苦手、という人も少なからずいらっしゃいます。彼らにとっては最適な道具だと思います。他社が提供する機械学習の環境を見る限り、これほど洗練されたものはまだほかにないと考えています」
ゴーグル型の自己完結型ホログラフィックコンピューター「HoloLens(ホロレンズ)」は、いわばホログラムを現実世界に登場させるデバイス。仕事においては、例えば技術者に指示を出し業務効率を上げるといった使い方が考えられるという。
「マイクロソフトが開発した『フラグメンツ』という推理ゲームがまた最高なんです。ホロレンズを装着して自室をスキャンすると、突然3Dの人物が隣に現れて『これから事件が起きるからメモと紙を用意しろ』などとナビゲートを始める。まるで家がそのままゲームになったかのようです」
画像の誤認識率で初めて人間を超えた
マイクロソフトは、研究機関としてMicrosoft Researchを創設して以来、25年間にわたりAIを研究してきた。
「北京にある拠点では画像認識がかなり進んでいます。2015年には、画像認識のコンテストで誤認識率3・5%という結果に。ちなみに人間の誤認識率は5・1%。我々は人間の誤認識率を初めて超えたテクノロジーベンダーになったのです」
昨年にはAIにかかわるエンジニアを集結させるかたちでMicrosoft AI and ResearchGroupを創設。AIファーストを推し進めるべく全世界で5000人以上が集められた。現在では、マイクロソフトのAI技術の多くがここから生み出されている。
日本では開発拠点であるマイクロソフトディベロップメントが製品を開発しているが、米国本社の開発部門に転籍する機会もあるという。また製品・サービスの販売が中心の日本マイクロソフトにおいても、販売をサポートする理系人材が活躍中だ。「自然言語処理のわかる人材がもっと欲しいですね。クライアントからの反響が大きい、AIの自動翻訳やチャットボットのデモなどをサポートしてもらえたらと思っています」
マイクロソフト、アップル、グーグル、アマゾン、フェイスブックなど、AI市場における覇権争いは熾烈を極めている。「特別どこかをライバル視することはない」としながら「あらゆる分野でトップ争いをしているのは当社だけ」と自信をのぞかせる榊原氏。今後求めたい理系人材の姿とは?
「頭で考えるよりも、まずやってみるという人です。何カ月もかけて開発したものを失敗するのではなく、小さく早く、失敗を繰り返すことで、大きな成功を手にしていく。企業にとっても人材にとっても、今大切なグロースマインドセットとは、そういうものだと思います」
榊原 彰
さかきばら・あきら/1986年、弘前大学人文学部経済学科卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社入社。2005年、ディスティングイッシュト・エンジニア(技術職のグローバル最高位)に任命。10年、グローバル・ビジネス・サービス事業CTO、12年、スマーター・シティ事業CTOに就任。16年1月、日本マイクロソフト株式会社入社、執行役・最高技術責任者(CTO)、同年7月、執行役員・最高技術責任者(CTO)に就任。
設立/1986年2月
代表者/代表取締役社長 平野拓也
従業員数/2150名( 2017年7月1日現在)
所在地/東京都品川区港南2-16-3 品川グランドセントラルタワー
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