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【オピニオン】科学技術を外交に、外交を科学技術に  外務省 外務大臣科学技術顧問 参与 岸 輝雄 第13回

【オピニオン】科学技術を外交に、外交を科学技術に  外務省 外務大臣科学技術顧問 参与 岸 輝雄 第13回

テクノロジストオピニオン第13回
外務省 外務大臣科学技術顧問 参与 岸 輝雄

構成/南山武志 撮影/内海明啓

科学技術を外交に、外交を科学技術に

私は2015年9月、初代の外務大臣科学技術顧問(外務省参与)に就いた。そんな役職があるのか、と訝る人も多いと思う。科学技術に日常的にかかわる官庁といえば、主として文部科学省であり経済産業省であろう。ただし、テーマが海を越えると、例えばどこかの国と科学技術協力協定を結ぼうといった話になれば、最後にサインするのは外務省になる。グローバル化が進展するなかで、科学技術が外交と絡み合う機会も深さも、増すばかりだ。自ら、もう少しその知見を深めるべきだという問題意識が、外務省内にはもともとあった。当時、米、英、およびニュージーランドの3国が同様の大臣直属の科学技術顧問を置いており、それが有効に機能していたことも、ポスト新設の背景にはあったようだ。

科学者の立場で“エビデンスベースの外交”を推進するお手伝いをしたい、というのが私の思いだ。様々、問題も指摘される日本の科学技術の今後にとっても、外交がそうした力をつけることは意味があるだろう。要するに「科学技術を外交に、外交を科学技術に」である。

私に課せられた任務をより具体的にいうと、「各種外交政策の企画・立案における科学技術の活用について、外務大臣や関係部署に助言を行う」ということになる。その大枠の方向性、提言内容を議論する場として、幅広い分野の先生たちを集めた「科学技術外交推進会議」を立ち上げ、2カ月に1回程度のペースで会合を持っている。そうした場を通じて、エビデンスベースの政策決定の重要性を認識しつつ行われる議論は、実際の政策にも反映されている。

16年5月のG7伊勢志摩サミットの成果文書には、外務大臣への提言に沿って、「科学的知見に基づく海洋管理のための観測強化の支持、及び医療データ分野での国際協力の重要性」が記載された。日米とアフリカ53カ国などが参加して、同年8月に開かれた第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)に向けては、アフリカ諸国のブレイン・サーキュレーションの構築、研究開発成果の社会への還元の2点についての提言を提出するとともに、ケニアで開かれた同会議の関連イベントに出席し、現地関係者との意見交換なども行った。さらに昨年は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)が実施のステージに移行するなか、科学技術・イノベーション(STI)を通じて、我が国がその達成にどう貢献すべきかの提言を行い、国連での岸田外相のプレゼンテーションで発信されている。

とはいえ、「自分の仕事でこれだけ国益が守られた」といった目に見える成果をあげられているのかというと、正直心許ない。外交というのは、「半分握手する」ものだということが、私は最近になってようやくわかった。例えば、大学のなかで何か新たな取り組みをする、改革を行うとかであれば、ターゲットは明確だ。しかし、国際舞台では、そもそもアジェンダが設定されずに「何をテーマにすべきか、ディベートしようではないか」というスタイルで会議に呼ばれたりすることが少なくないのだ。当然のことながら、国によって科学技術をめぐる事情も違えば、思惑も違う。産業界には、技術流出に対する警戒心も強い。

ただし、それでも今はまず、いろんな国や人と接触することが何より大事だと思っている。私自身、このポストに就いて諸外国に出かけたり来客を迎えたりして、初めて理解したことが多々ある。次回は、そのあたりの話をしてみたい。

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Teruo Kishi
1969年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。
東京大学先端科学技術研究センター教授、センター長などを経て、2000年、東京大学名誉教授。15年より、外務大臣科学技術顧問(外務省参与)。ほか現職として、新構造材料技術研究組合理事長、国立研究開発法人物質・材料研究機構名誉顧問、内閣府政策参与科学技術政策・イノベーション担当など。
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