【研究部門最前線Vol.13】楽天グループの多彩な事業と顧客の発展を見据え、未来のサービスを探究し続ける

巨大グループの頭脳として機能

企業におけるインターネット研究の必要性が高まりつつあった２００５年、「ビジネスと組む」をフィロソフィーとして創立された楽天技術研究所。日本を代表するＩＴ企業、楽天グループの頭脳的役割として、時代の先を見極めつつ、柔軟に姿と形を変えながら機能してきた。

「基本的には、アカデミックな手法や最先端のテクノロジーを楽天の様々なビジネスに持ち込み、企業としての成長を後押しすることが我々のミッションです」と森正弥代表は言う。

実際に研究プロジェクトの７〜８割は、ビジネスにトランスファーされてきた。ＩＴ企業内研究所の〝あるべき姿〞を体現しているといえるだろう。

「ＡＩ研究は、ディープラーニングのほぼ全領域をカバー。ドローンデリバリーをスタートしましたが、安全着陸のための画像認識など多様な研究成果が詰め込まれています。現在、東京、パリ、シンガポール、ボストン、シリコンバレーの世界５拠点で、数百のプロジェクトが同時に進んでいます」

楽天の原点、ｅコマースについては、競合する専門研究機関が少ないため独壇場だ。顧客の隠れたニーズを見つけ出す技術、通信ネットワークの最適化などに加え、最近は「クリエイティブＡＩ」の研究に力を注ぐ。

「これは、繰り返しではない専門的知識をもとにした、経済的価値あるコンテンツ作成を伴うＡＩ技術の活用の総称。たとえば、絵画や小説、音楽や映画の作成、ジャーナリズムにおける記事の作成などが挙げられます」商品情報をデバイスやユーザーの嗜好に合わせて自動的に最適化するＡＩ、広告バナーや、商品説明を自動的に生成するＡＩなどがすでに稼働している。

顧客と組んだ未来型店舗

グループ内の各事業と組むだけにとどまらず、顧客、クライアントなど外部と提携した研究もスタート。自社内のリソースだけでは顧客やクライアントのニーズを捕捉しきれない部分があり、それなら組織の枠から飛び出せばいい、という発想だ。

効果を高める広告配信のソリューション技術を広告主と試す、楽天市場出店店舗と共同でＡＩやＩｏＴを活用した新しい商流をデザインする――ここで得た成果を、自社のビジネスにフィードバックしながら、イノベーションを生み出すという戦略だ。「一昨年に行ったユニークな実証実験を紹介しましょう。雑誌『ＦＵＤＧＥ』主催のイベントに、楽天市場出店企業、筑波大学と共同で〝近未来スタイリングルーム〞を出展しました。顧客は最適な色、サイズ、デザインの服をサイネージ上で試着でき、遠隔地にいるスタッフがボイスチェンジャーを使ってスタイリングアドバイスします。出展ブースには１時間待ちの行列ができるほどの大人気でした」一つの型にはまらない柔軟な研究内容、研究スタイルでビジネスにアカデミックな要素を付加する同研究所は、「進化を止めないビジネス・インテリジェンス集団」と呼ぶにふさわしい。

スタッフの６割以上は博士号取得者だ。国籍も多彩で日本人は全体の２割ほど。日本人以外は中国人が最も多く、アメリカ、フランス、インドと多岐にわたる。それでも「優秀な日本人研究者が欲しい。日本語のニュアンスの把握、細やかな日本的感性をサービスに生かすといった理由に加え、企画を立てる際にも絶対に必要だからです」と森代表。

ＦＣバルセロナのスポンサーとなるなど、大きな驚きを提供し続ける楽天のビジネスにいかに先んじ、未来ビジョンを大胆に描き、かつ柔軟に提案していけるかがカギを握る。「重要なポイントは、これからＡＩによって仕事のあり方、進め方が確実に変わるということです。当研究所の研究プロジェクトは、ますますビジネスに与えるインパクトが大きくなるでしょう。仕事がどう変わるかを予測し、変わることに対して最適なコンサルティングができる、そんな研究者と一緒に働きたいと思っています」変化に対応するだけでなく、未来の変化を先読みし、動きだせる人材が求められている。