データを武器に「未来をつくる」
株式会社GRIのサービスの要は、多領域のデータ解析だ。各種マーケットリサーチデータにWebログ、音声も画像も位置情報もと、データ種別を限定しない。「街コンのマッチングデータも扱います。変わったデータでも『GRIならやれそうだ』と期待していただくことが多いです」と同社代表の上野勉氏。ひと言でいえば、データサイエンスを自在にあやつる〝企画集団〞か。「今までできなかったこと」を企画し、データ解析技術を駆使、システムとして実装する。すなわち同社が志向するのは〝イノベーション〞だ。
2018年4月にリリースされたばかりのサービスに「SmartSurvey®(スマートサーベイ)」がある。これはユーザー自身がアンケートを作成し、マーケットリサーチを行うアプリ。調査で得られたデータをオープンにするというアイデアがユニークだ。「データ自体よりデータを使って何をするかに意味がある」という考えに基づいている。それは同社が掲げる価値観そのものだ。
「データの活用法には2つあります」。データサイエンティストの古幡征史氏は語る。
「一つは、クライアントが持ち込んだ企画が正しいかどうか、データ的に検証する古典的な手法。もう一つは、逆に『こんなデータがあるならこんなサービスがつくれる』と提案する手法。よりデータサイエンティストらしいのは後者ですね。人に言われたことをこなすのではなく、自分のアイデアで未来をつくりたい人間、そのために努力できる人間でありたい」
こんなコンサル事例がある。牛の首に加速度センサーを取り付け、牛の位置情報から分娩を検知しようという試みだ。もともと牛の発情を検知するために活用されていたデバイスだが、「分娩も同時に検知できないか」との相談が同社に寄せられた。まだ実験段階だが、実現すれば世界初となるという。
企画力を養成する〝研究室〞の雰囲気
メンバーの大半が理系大学院の出身。ほぼ新卒採用だ。企画力を備えたデータサイエンティスト集団の一員にするべく、トレーニングには力を注ぐ。自由研究よろしく、プロジェクト外で企画を考えさせ、ブラッシュアップしていくというもの。「まるで研究室」のような面倒見のよさで、後進の成長をプッシュする。「自分にとって身近なものでいいので『本当に欲しいものをつくる』ことがスタート」と上野氏。また古幡氏は「企画力を伸ばすのとセットで『なぜそうしたのか』説明できる力も身につけてほしい。どのデータをどのように加工してどう分析し、どうビジュアライズするか、禅問答のように繰り返しています。何にしても理由を説明できなければ、クライアントには通じません」と語る。
そんな同社が求める人材像として上野氏は「感度のいい人」を挙げた。社会に向けてアンテナを張っていれば、それだけインプットも多いはず。アウトプットは入社以降の訓練で鍛えられるが、インプットは〝感度〞に左右されるというわけだ。
二人に今後の展望を聞いた。「事業開発でいうと、今後5年、10年かけて、私たちが企画と技術を提供するかたちで資金力のある他社と連携し、サービスを提供する会社をたくさん立ち上げていきたいですね。当社は企画と技術、そして人材を養うことに特化し、それを多くの会社に移転させることで、サービスを拡大していきます」(上野氏)
「さらにいえば、データサイエンティストという肩書がなくなる世の中にしたいと考えています。データサイエンティストの役割の一つに機械学習の成果をわかりやすく説明する、解釈するというものがあります。これを明示化するシステム開発に取り組んでいるのです。完成すれば一般の事業会社の方でも簡単に機械学習を使いこなせるようになる。我々の仕事は失われてしまうかもしれませんが、私たちはやはり〝企画〞の会社です。機械学習の理解が進んだ社会になれば、企画を考えるポイントもより絞り込める。そこで勝負したいですね」(古幡氏)
博士(コンピュータサイエンス)
古幡 征史
ふるはた・まさぶみ/筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了。ウェスタンシドニー大学、トゥールーズ第一大学にて博士号取得。KPMGコンサルティング、北陸先端科学技術大学院大学、南カリフォルニア大学、ドワンゴを経て、2016年9月より現職。人工知能学会優秀研究賞受賞。
上野 勉
うえの・つとむ/1989年、筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了。JTB(日本交通公社)、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、GAGAを経て、2009年、株式会社GRIを設立。青山学院大学社会情報学部特任講師、神奈川大学大学院経済学研究科講師(現任)を歴任。データサイエンティスト協会企画委員長。
設立/2009年2月
代表者/代表取締役CEO 上野 勉
従業員数/18人(2018年6月末現在)
所在地/東京都港区芝公園1-3-8 苔香園ビル5階
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