Read Article

【大学研究室Vol.37】ロボットの身体に人間らしい感覚を──。産業界などとの協働にも注力しながら、“知能ロボット”研究の未来を切り拓く

注目の大学研究室

早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 表現工学科 尾形研究室
教授 博士(工学) 尾形哲也

目指しているのはロボットのスマホ化

2000年頃に起こった第2次ロボットブーム──。華々しく登場した「ASIMO」や「AIBO」が〝ハードウェア〞としての優れた性能を披露し、世の人々は、「もう少しで鉄腕アトムのような人型ロボットが、私たちの生活をサポートしてくれる時代が到来するに違いない」と期待に胸を膨らませた。それから20年近く経ったが、その未来像はいまだ実現していない。「最大の理由は、ハードウェアのポテンシャルを利用できる〝知能〞に関する技術が圧倒的に不足していたからです」

そう話す尾形哲也教授は、人型ロボット研究の権威として世界にその名を知られた、故・加藤一郎氏の最後の教え子であった。ヒトの言語を理解し、自ら考え動く知能ロボットを、ディープラーニングの技術を駆使しながら、〝汎用化〞するための研究に取り組んでいる。

「従来のロボットは、限定された目的や用途を前提に手先のハンドなどのハードウェアが設計・製作され、搭載するプログラムも目的に応じて大幅に変更して使用するものがほとんどでした。ならば私たちは、従来のロボット単体では難しいことをやろうと考え、タスクや目的が変化した時でも自ら学習することで、様々な仕事をこなせるようになる多用途ロボットの研究に取り組んでいます」

具体的なイメージとして、尾形教授は「スマートフォン」を例に挙げる。

「スマホが優れていたのは、何かに〝特化〞していなかったこと。電話、カメラ、ゲーム、辞書など様々なデバイスを兼ねることが可能ですが、どの機能も中途半端。にもかかわらずスマホは世界を席巻しました。従来のロボットは目的に特化した〝専用機〞として利用されることが主流ですが、今後はスマホと同様、ソフトの切り替えだけで、性能では専用機に劣るが、多様な作業に利用できるロボットが求められる時代が来ると思います。それを可能にするツールの一つが、急激に進歩を続けるディープラーニングです」

我が国は、ロボットのハードウェア分野では世界トップクラスの技術を誇る。しかし、知能として搭載すべきソフトウェア、すなわちAIの分野ではアメリカや中国に後れをとっている。「ハードで勝利しても、ソフトで敗北したら、全体としては負け。スマホがそれを示しています。日本はガラケーまではハードのおかげでなんとか勝てていましたが、スマホ時代のコンセプトやソフトで負けました」

ディープラーニングは学習データ量が多いほど精度が増すため、膨大な実データを所有し、かつ膨大な資金を持つ「GAFA」に勝つことは難しい。そこで尾形教授は、ディープラーニングを応用した知能ロボット分野の研究開発に活路を見いだしている。「ハードの分野が強みを維持しているうちに、先行したい」と意気込みを見せる。

AIでロボットの潜在力を引き出す

ディープラーニングの分野では、与えられたデータから未来を予測して学習する「予測学習」が重要視されるようになっている。尾形教授もその予測学習技術を活用して、企業との連携を進めながら次世代AIロボットの開発を進めている。

たとえば、タオルを折り畳むロボットは、目の前の現象がどう変化するかを、ロボット自体に予測映像を生成させることで実現。それ以外の作業も、学習データを換えることで可能となる。日立製作所との共同研究では、ロボットに行わせると開発コストが非常に大きくなる〝ドア通過〞のタスクを、「ドアに接近する、ノブを回す、開ける、通り抜ける、閉める」という一連の動作行程を別々に学習するディープラーニングを用いることで短期間に開発した。各動作についてのパターンをいくつか学習させておけば、類似の課題が出現した時に、ある程度の範囲内であれば自ら学習してクリアする方法を発見するため、新たなプログラムを作成する必要がなくなるという。

「アーム一本の動きでも、移動できるだけでも、ロボットにできる作業には多くの可能性があります。その〝多用途に使える可能性がある〞というハードウェアのポテンシャルを引き出せる技術が、音声認識にも画像処理にも使えるディープラーニング。この技術の属性を利用することで、ロボットの潜在能力を最大限に高めていきたいと思っています。もしかすると今後は、知能研究の観点からロボットのハードウェア設計を考え直していくといった、新たな流れが生まれるかもしれません」

尾形教授の専門は「認知発達ロボティクス」。ロボットを使って人間の知能の理解を試みる学問だ。「僕がこの分野に進んだのは、ロボットを研究することで、『人とは何ぞや』を解明したかったから」(尾形教授)

注目の研究

左上/学習データを換えるだけで、同一プログラムとハードウェアで複数動作を実行(協力企業:ベッコフオートメーション、デンソーウェーブ、エクサウィザーズ)右上/複数のディープラーニングモデルでドア開けと通り抜けの全身動作を実現(協力企業:日立製作所)左下/CEATEC 2017におけるデモの様子。未学習のタオルも数秒で畳むことができる(協力機関:産業技術総合研究所)右下/粉体の計量を正確に行う。様々な装置への実装コストを大きく削減(協力企業:デンソーウェーブ、エクサウィザーズ)

尾形哲也
教授 博士(工学)

おがた・てつや/1995年、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。日本学術振興会特別研究員、早稲田大学助手、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員、京都大学大学院情報学研究科准教授を経て、2012年より現職。17年以降、産業技術総合研究所人工知能研究センター特定フェロー(クロスアポイントメント)なども務める。

URL :
TRACKBACK URL :

コメント

*
*
* (公開されません)

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

Return Top