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【オピニオン】研究者のキャリアを考える。文部科学事務次官 土屋定之 第1回

【オピニオン】研究者のキャリアを考える。文部科学事務次官 土屋定之 第1回

テクノロジストオピニオン第1回
文部科学省 文部科学事務次官 土屋定之

構成/南山武志 撮影/大平晋

社会経済の変革に対応した知識やスキルを持った
プロフェッショナルの養成を急がねばならない

私は理系、“土木”の出身である。高校生の頃、時の田中角栄総理大臣が提唱した「日本列島改造論」に感化され、その道を志した。高速道路や新幹線網の整備などを基軸に国土の均衡ある発展を実現するという大構想は、当時の若者にとって、インパクト大であった。結局、科学技術庁に入庁し、当初の計画とは少し違う社会人人生を送ることになったのだが、国の未来を創出する“科学技術”に対するリスペクトは、今も心の真ん中にある。ところで、私が学んだ頃の大学教育には、「社会に出て働くためのトレーニング」という観点はさほど強くなく、企業の側も、大学にそれを望んではいなかった。とにかく、ガッツのある元気な若者を送ってほしい。訓練はうちでやるというスタンスだった。それができたのは、終身雇用を前提に、企業が人材育成に時間とコストをかけることが可能だったことが大きい。しかし、時代は変わった。熾烈な国際競争にさらされ、いつ事業の“ゲームチェンジ”が起こるかわからない環境に置かれた企業に、人材を一から育てる余裕は、もはやない。いきおい、高等教育機関に対する視線も変わった。「プロフェッショナルとしての素養、知識、スキルをしっかり身につける」場として、大きな期待を寄せられるようになったのだ。これから社会の荒海に漕ぎ出す人間たちにとっては、より切実だ。社内教育に多くが期待できない以上、その役割は、やはり大学に求めざるを得ない。学生の大学に対する要望も、かつてないほどクリアになっている。あえて付言しておけば、それらはなにも企業の都合などではなく、大学教育が本来発揮すべき機能の一つである。さて、そうした要請に対して、ともすれば“対応の遅れ”を批判されもする大学(や文科省)だが、大学は着実に変わりつつあり、各大学は明確な問題意識をもって改革に取り組んでいる。興味深いデータを紹介したい。文科省が昨年秋に実施した「大学における専門的職員の活用の実態把握に関する調査」である。国立86、公立78、私立279、短期(公立・私立)116の大学から回答を得た。

注目すべきは、「今後配置したい職務で特に重要と考える専門的職員」に対する回答だ。結果は、「インスティテューショナル・リサーチ」22.9%、「執行部判断に対する総合的な補佐」13.9%、「地域連携」10.3%と続いた。これらはいずれも“大学経営”の重要ポイントにかかわる人材である。例えば、どんな学生を受け入れたいか、どんな教育により、どのような人材を育成するか、といった戦略を練るエキスパートといえるだろう。いずれにせよ、従来の大学職員にはなかった“専門的職種”である。そんな人材がこれから重要になると考えられているところにも、大学改革が進展していることや優秀な人材の養成が社会経済発展の成否の鍵であることの証左が示されている。

日本が世界に伍して戦っていくうえでの最大の武器が“科学技術力”であることは、今も昔も変わらない。にもかかわらず、近年、その弱体化を懸念する声も強まっているのは、由々しき事態だと思う。変革のターゲットの一つが、「これからの科学技術立国を支える世界的な技術者、研究者の養成」に据えられなければならないことは、いうまでもないだろう。

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Sadayuki Tsuchiya
1979年、北海道大学大学院環境科学研究科修士課程修了。
科学技術庁入庁後、宇宙開発事業団ロサンゼルス駐在員事務所長、
理化学研究所横浜研究所研究推進部長、文部科学省大臣官房長、
文部科学審議官などを経て、2015年8月より現職。広島県出身。
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