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【オピニオン】研究者のキャリアを考える。文部科学省顧問(前文部科学事務次官) 土屋定之 第3回

【オピニオン】研究者のキャリアを考える。文部科学省顧問(前文部科学事務次官) 土屋定之 第3回

テクノロジストオピニオン第3回
文部科学省顧問(前文部科学事務次官) 土屋定之

構成/南山武志 撮影/大平晋也

大学、産業界、そして研究者も、今一度、国際化という課題を正面から捉え直すべき

政府が、2013年に成長戦略として閣議決定した「日本再興戦略」には、「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上を入れる」ことが明記されている。現状はどうか? 最も権威あるランキングとされる英国の教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』の直近の発表(2015-2016)によれば、100位以内にランクインしたのは、東京大学(43位)と京都大学(88位)の2校のみだった。目標達成のためには、相当の努力が必要になる。
あえて述べておけば、こうしたランク付け自体、評価基準が”恣意的”で、気にする必要はないという人も多い。確かに、そうした順位ばかりに気を取られるのは本末転倒だ。だが、世界の学生や研究者はこの結果も参考に学びに行く場所を選んでいる、という現実もある。無視はできないのだ。

一方、こんな”順位”はどうか。01年以降、ノーベル賞の自然科学分野の受賞者数で、我が国は米国に次ぐ世界第2位。英国やドイツよりも上にいる。ところが、受賞した研究の大半は、1980年代の成果なのだ。足元を見ると、論文の数や被引用数にみる我が国のポジションは年々低下傾向にあり、胸を張っていられる状況にはない。このままでは学術分野での国際競争力の低下が免れないという危機感を、我々は共有すべきだろう。

そうした現状を生んでいる原因の一つが「大学のグローバル化の遅れ」にあるのは、論をまたない。さきほどのランキングでも、日本の大学は「研究」「産学連携」といった指標で高いポイントを獲得しながら、外国人学生比率、同教員比率、国際共著論文比率を基に算出される「国際」で大きく他に水をあけられ、それが総合的な評価の低さに直結している。

大学の外国人の受け入れが遅れているだけでなく、「外に出ていく」日本の学生、研究者が少ないことも極めて深刻だ。研究の世界で重要なのは、象牙の塔に閉じこもるのではなく、積極的に異分野と交わることだ。その最たるものが国際交流であろう。事実、”国際チーム”からは、被引用度の高い論文が生産される傾向が強いのだ。それらの論文の動向を分析したところ、米国、欧州、中国の間では、非常に多数の研究者が、それぞれを行き交っていることもわかった。彼らのダイナミックな移動に比べ、日本のそれはあまりにも細い。

我が国の研究者が、世界的な”ブレイン・サーキュレーション”の輪から外されるような事態は、あってはならない。文部科学省としても、研究者の海外とのネットワークづくりを支援する取り組みなどを進めているが、大学自身もそして産業界も、今一度この国際化という課題を正面から捉え直してほしい。そのうえで、産学官がともに手を携えて、目の前の壁を乗り越えていく必要があると思うのだ。
さて、私事になるが、私はこのほど文部科学事務次官を退官し、同省顧問に就いた。約37年の役人人生の中で最大の出来事は、何といっても01年の文部省と科学技術庁の統合だ。統合プロジェクトとして、高校で先進的な理数教育を行う「スーパーサイエンスハイスクール」制度の創設に携わったことが、昨日のことのように思い出される。同制度が今も機能し続けていることに、感慨ひとしおだ。今後は”文科省の応援団”として、陰ながらお役に立てればと思っている。

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Sadayuki Tsuchiya
1979年、北海道大学大学院環境科学研究科修士課程修了。
科学技術庁入庁後、宇宙開発事業団ロサンゼルス駐在員事務所長、
理化学研究所横浜研究所研究推進部長、文部科学省大臣官房長、
文部科学審議官などを経て、2015年8月、文部科学事務次官。
16年6月より現職。広島県出身。
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