生物がくれるヒントを応用
化学反応を制御し、その反応を速める触媒は、医薬品や農薬など様々な化学製品の製造、研究開発のキーとなる物質だ。
「新たな製品の開発や、より環境負荷の少ない製法に貢献する高機能の触媒をデザインしていく。それもヒトの体内にもある酵素に学んで開発しようというのが、私たちの主要な研究テーマなのです」と石原一彰教授は説明する。
応用化学一筋だった石原教授が〝畑違い〞の酵素に着目したのは、「与えられた環境に従った」のがきっかけだったという。「教授になったのを機に、学科の要請で生物系の授業を受け持つことになったんですね。仕方なく独学で生体機能などを勉強しました(笑)。ところが始めてみたら、生物の営みは自分の本業にとってヒント満載だということに気づいたわけです」
それはどんな〝ヒント〞だったのだろう?
「外から栄養分を取り入れて、それらを使って脂質やアルカロイドなどの有用物質を合成するという〝代謝〞は、まさに有機化学の世界。それを制御している酵素は、触媒そのものなのです。ところが同じ触媒でも、フラスコの中の反応に使っているものと違い、非常に効率よく反応をコントロールして、副反応も存在しません。かつ特定の物質に選択的に働くというのも、大きな特徴です」
〝酵素から学ぶ〞ことによって広がる可能性の一つは「グリーンケミストリー」への応用だ。
「化学工業でも、製造時の有害物質の排出削減や、より少ない原料での高純度品の生産といった〝環境対策〞が求められるようになっています。個々の合成を制御してその効率を高めたり反応工程数を減らしたりすることは、そうしたニーズを実現する重要な手段。制御のカギを握るのは、いうまでもなく触媒です。他方生体内では、つくられたものが無駄なく使われていく循環の仕組みが完璧に働いていて、やはりそこで酵素が決定的な役割を担っている。その働きを有機合成の現場に応用できないか、というのがアプローチの方向性なんですよ」
特許化を推進
民間転用を目指す
そうした〝触媒のデザイン〞においては、元素戦略も重要な意味を持つ。
「レアメタルが入手難になったら、とたんにアウトというのでは困りますからね。それらに過度に頼らない触媒づくりを考えなければなりません。我々が注目しているのはヨウ素。金属ではない無機元素にもかかわらず、酸化還元反応に使えるのです。甲状腺ホルモンに含まれている安全な物質であることもメリットでしょう」
同研究室ではすでに100近い触媒を合成、約30件の特許を取得。まだ最終製品まで到達した例はないものの、「それらをシーズに産学連携で共同開発をしたり、使えるものは企業に使ってもらったりするのが研究の目的です」と石原教授は言う。
「いくつかは試薬として販売もしています。今最も期待しているのが〝光学活性ビナフチルジスルホン酸〞という物質で、いろいろな不斉触媒の原料になりうるものです。先日も米国の研究者から問い合わせがあり、サンプルを送ったところです」
究極の目標は〝酵素を凌駕する小分子高機能触媒の設計〞だ。「実は酵素は、我々が普段使っている触媒の数百〜数千倍くらいの分子量を持っているんですよ。そのことが、述べてきたような機能を発揮できる要因の1つではあるのですが、とはいえ分子のすべてが反応に関与して
いるわけではありません。化学反応に必要な酵素の活性部位のみを100分の1のサイズで〝再現〞できれば、はるかに原子効率の高い触媒ができるはず。そこを目指して研究を続けていきたいと考えています」
ところで石原研究室では、博士課程に進む学生に対し、3カ月の研究留学を勧めている。
「留学先を斡旋し、費用は大学の補助金などを活用して行ってもらっています。私自身、学生時代の留学経験がとても貴重な体験になりました。どちらかというと保守的な最近の学生ですけど、そうした機会を利用して思い切って海外にも出て、いろいろ学んでほしいと思っているんですよ」
石原一彰
教授 工学博士
いしはら・かずあき/1963年、愛知県生まれ。86年、名古屋大学工学部応用化学科卒業。91年、同大学大学院工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了。同年、ハーバード大学にて博士研究員。92年、名古屋大学工学部助手、97年、同大学難処理人工物研究センター助教授を経て、2002年から現職。
名古屋大学大学院工学研究科で「触媒合成学研究室」を主宰する石原一彰です。多くの方にこの記事を読んで頂き大変光栄です。研究室のwebsiteやfacebook pageをほぼ毎日更新しておりますので、是非ご覧ください。当研究室に関して何かご意見・質問・感想などがございましたら石原までお送りください。今後とも応援の程よろしくお願い申し上げます。
2015年度に最先端機能分子・材料合成技術ユニット(M&M SYNTECH Unit)を立ち上げました。メンバーは石原一彰(ユニット代表者、名大工、触媒・反応開発)、上垣外正巳(名大工、高分子合成化学)、横島聡(名大創薬、全合成)、YOU Shuli(中国上海有機化学研究所、触媒・反応開発)の4人です。ユニットメンバーは、皆、合成技術の匠ですが、ターゲットが異なるため、考え方も研究のアプローチも全く異なります。毎月情報交換会を開催し、喧々諤々の議論を重ね、シナジーのある研究に挑戦していくことで、分子合成技術の世界拠点を築きたいと思っています。
http://www.aip.nagoya-u.ac.jp/public/nu_research_ja/features/detail/0003566.html
【動画】石原研究室(触媒有機合成学):酸塩基複合化学を基盤とする高機能触媒の設計 https://www.facebook.com/kishiharalab/videos/1748632905395583/
「東日本復興と学び応援プロジェクト」
自分たちの力を信じよう~化学者の立場から
http://www.wakuwaku-catch.jp/ouen_pj/message/1026.html
[強力な研究室を作るためのマネジメント]
石原一彰(名大院工)化学フェスタ2016 講演要旨 K1-06
https://www.facebook.com/kishiharalab/
[強力な研究室を作るためのマネジメント]
https://www.facebook.com/kishiharalab/posts/1798959787029561
名古屋大学・石原 一彰先生のAngewandte Author Profileを公開
http://www.wiley.co.jp/blog/pse/?p=5922
座右の銘その1「知之者、不如好之者。好之者、不如楽之者。」(「論語」雍也第六の二十より )
「之を知る者は、之を好む者に如かず。之を好む者は、之を楽しむ者に如かず。」 “To like is better than to know. To enjoy is better than to like.”
座右の銘その2 “Anyone who has never made a mistake has never tried anything new.” (Albert Einsteinの言葉)
一度も失敗をしたことがない人は、何も新しいことに挑戦したことがない人である。
2017年3月6日、リクルートの「みんなの座右の銘」の「本日の座右の銘」として、当研究室の座右の銘が取り上げられました。
https://www.facebook.com/recruit.jp/photos/a.240620755967175.76184.240606315968619/1604724326223471/?type=3&theater
【本日の座右の銘】
大学時代の恩師からいただいた言葉、だそうです。投稿者“K.Ishihara Lab.”さんから頂きました。
苦手意識を持ったら負け。どんなときでもおもしろいところもあれば嫌なところもあります。おもしろいところに気づけば、苦手意識も克服できる。
そして、楽しいところに気づけばとことんがんばれる。
そう、本日の言葉を教えてくれました。
意に反する場面も、不条理に感じることもある。大人なのだからとガマンするより、どうしたら楽しめるか、そう思って行動する習慣を持つ。
人生、ゆっくりと楽しめるほうへ。舵をきっていければと思います。
卒業の季節に贈る、本日の座右の銘でした。
石原一彰教授が「平成29年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)」を受賞しました(受賞日:平成29年4月19日)。
改組に伴い、石原研究室は、2017年4月1日より「名古屋大学 大学院工学研究科 有機・高分子化学専攻 有機化学講座 触媒有機合成学研究グループ」になりました。
朝日新聞(2017年10月15日(日)朝刊5面)の先端人のコーナーに波多野学准教授の紹介記事が掲載されました。
見出し: 触媒反応開発 物質結ぶ化学の「仲人」
http://www.asahi.com/area/aichi/articles/MTW20171016241370001.html
2017年12月18日、多畑勇志(M2)、波多野学(准教授)、石原一彰(教授)の3氏が日本プロセス化学会(JSPC)優秀賞を受賞しました。
受賞課題「高活性第四級アンモニウム塩触媒を用いるエステル交換反応」
プロフェッショナルになればなるほど、その道や流儀に拘るものである。確固たる信念なくして開眼の境地に達することはないからである。
研究とは何か。私(石原一彰)が拘る「研究の流儀」なるものを綴ってみた。まだ未熟ゆえ、完成したとは言えないが、常に自分に問いかけることは重要である。
私の「研究の流儀」
1.研究は知と創造の欲求である。
2.之を知る者は之を好む者に如かず。之を好む者は之を楽しむ者に如かず。
3.為せば成るではなく、為さねばならぬことを成せ。
4.セレンディピティを引き当てる研究をせよ。
5.真似されても、真似するな。
6.真似は学習であって、研究ではない。
7.真似で終わるな。必ず独創的研究に繋げよ。
8.論文目的の研究をするな。
9.事実は真実の敵なり。
10.常識は研究の壁なり。
11.失敗は未知への挑戦の証であり、次に繋がる一歩と心得よ。
12.研究の評価は時代に左右されるが、その価値は不変である。
石原一彰教授の平成29年度第70回日本化学会賞受賞が決まりました。
研究業績「高機能酸塩基複合触媒の合理的設計」
http://www.chemistry.or.jp/news/information/29-7.html
2018年2月27日 プレスリリース
「エステルの実用的合成法の開発に成功! 〜有機塩触媒を用いて高純度エステルの製造に道を開く〜」
http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20180227_engg_1.pdf
日本の研究.com
https://research-er.jp/articles/view/68340
化学工業日報(2018年2月28日1面)
「名古屋大 エステル合成 金属フリーで高収率」
http://www.kagakukogyonippo.com/headline/2018/02/28-32920.html
巻頭言「有機反応を意のままに操るために」
石原 一彰
有機合成化学協会誌 2018, 76(6), 563.
オープンアクセス
https://www.jstage.jst.go.jp/…/…/6/76_563/_article/-char/ja/
私の自慢「根拠のないプライドを支えに、アカデミアの世界へ ポスドクでやり残したもの」
石原一彰
化学と工業 2018, 71(7), 598–601.
http://www.chemistry.or.jp/journal/ci1807.pdf
万能触媒で新薬開発に道 複雑な化合物 自在に結合(2018.12.12)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38795010R11C18A2X90000/
石原一彰のプロフィール(Eur. J. Org. Chen.)
https://doi.org/10.1002/ejoc.201801455