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【研究部門最前線Vol4】 石灰石から紙やプラスチックをつくる。株式会社TBMが求める人材とは?

“LIMEX”=社会を変える“夢の紙”。全社一丸で量産化とコストダウンを急ぐ!
株式会社TBM開発本部

株式会社TBMの面々。写真中央、今村氏の右に立つのは、同社会長の角祐一郎氏。
長年、製紙業界で活躍し、「紙の神様」の異名を持つ

石灰石が主原料。紙やプラスチックに

石灰石から紙やプラスチックをつくる――それを可能とする新素材の名はLIMEX(ライメックス)。石灰石(炭酸カルシウム)を主原料とし、ポリプロピレンなどポリオレフィン樹脂を加える。株式会社TBMは、当技術の特許を世界43カ国で取得・申請中である。

なぜ石灰石なのか、理由はまずエコロジーであることだ。普通紙を1トンつくるのに必要な木は約20本。水は約100トン。一方LIMEXなら石灰石0.6〜0.8トン、ポリオレフィン樹脂0.2〜0.4トン、そして水を一切使わず1トンの紙が出来上がる。プラスチックを代替すれば石油由来樹脂の使用を削減可能。LIMEXの紙からプラスチックをつくるといった半永久的なリサイクルも実現する。LIMEXはまたエコノミーでもある。石灰石は地球上にほぼ無尽蔵、日本でも100%国内自給できるため、量産が実現すれば安価な提供が可能だ。

LIMEXのルーツは、同社山﨑敦義代表が台湾で手にした「ストーンペーパー」。その輸入代理店を始めるも、普通紙に比べて重く、品質が安定しなかった。そこで山﨑氏は自社開発に踏み切った。約40億円もの出資や国からの支援を受けて、事業を本格稼働させている。

博士(工学)の黒木重樹氏ら4人からなる開発本部は、LIMEXの量産化とコストダウンに向けた研究を急ピッチで進める。技術顧問には花王でフロッピーディスクやエコナ油などの開発を指揮した今村哲也氏がついた。「現在のミッションは材料の選定やプラントの改良で生産を安定させること」と黒木氏。

「そして、より〝紙〞に近づける研究。ポリプロピレンは、そのままだと水を弾いてしまい、印刷適性が低い。そこに様々な処理を加えることで紙としての汎用性を高めていくのです」

同社が扱うのはこれまで世になかった新素材。LIMEXに直結するようなバックグラウンドを持つ研究者はいない。

「しかし、何か一つの領域を極めていることが大事だと思うのです。そこで得た論理的な思考力があれば、研究者は何をやっても短時間で高いレベルに到達できる。実際、アメリカでは物理のドクターが金融業界に就職するなんて普通です」(黒木氏)

「その論理力やチャレンジ精神があるなら、当社は面白いはず。ベンチャーですし、扱っているものには類例がない、やることはゴマンとある。大学の研究室と比べると、責任は重いですが、それを果たせるだけの環境が整っています」(今村氏)

壁紙、食品トレイなど用途は無限に広がる

今後LIMEXは、建材や自動車部品などへの用途開発を検討中だが、現在はLIMEX製の紙による名刺やポスターなどから販売を進めている。従来のストーンペーパーに比べ軽くて安価、それでも「技術的にはまだ途中段階」、紙を完全に代替できるまでには至っていない。

「その意味では、技術革新を進める一方で、紙と異なる価値、用途を探すことも大切です。例えば、海の家で使うメニューをLIMEXでつくったことがあります。耐水性があるので潮や砂がかかっても水で洗えるわけですね。また、壁紙や屋外用ポスター、LIMEXのプラスチックを食品トレイに用いる手もある」(今村氏)

多額の出資を受けていることから「プレッシャーが大きい」と苦笑する黒木氏と今村氏だが、表情は明るい。若き研究者へのメッセージを聞いた。

「何か一つを極めたことがある人は、何歳になっても新しいことができる。分野を変えることも恐れず進んでいけばいいんじゃないかと思います」(黒木氏)

「自分の頭でどんどん仮説を考えられる人が欲しいですね。誰も『こうしろ』なんて教えてはくれない。自分で考え、自分で信じてやっていくしかない。しかし、それこそが、研究の面白さだと思います」(今村氏)

宮城県白石で第一プラントが稼働中。水を一切使わないため中東やアフリカなど水資源が不足する地域への技術提供も目指す。昨年のミラノ万博日本館ではLIMEXを素材としたポスターや手提げ袋、入館カードが使われた

技術顧問
今村哲也 博士(工学)

いまむら・てつや/1967年、慶應義塾大学工学部計測工学科卒業後、花王株式会社入社。86年より3.5inchフロッピーディスク開発に従事し、マーケットシェア世界一を獲得。92年、同社取締役・研究開発部門統括。ヘルスケア事業本部長として、エコナ健康油、ヘルシア緑茶の開発を指揮し、両商品をシェアトップに。2005年、同社退社後、キッコーマン常任顧問、三井化学顧問に就任。13年、TBM技術顧問に就任。

開発本部
黒木重樹 博士(工学)

くろき・しげき/1994年、東京工業大学大学院理工学研究科高分子工学専攻博士課程修了。コロラド州立大学化学科博士研究員、NEDO産業技術研究員などを経て、2008年、東工大有機・高分子工学専攻特任准教授。15年4月より、TBM開発本部にてポリオレフィンと高充填フィラーからなる新材料LIMEXの研究開発に従事。
株式会社TBM
設立/2011年8月
代表者/代表取締役社長 山﨑敦義
従業員数/59名(2016年8月末現在)
所在地/東京都千代田区丸の内1-3-1 (2016年10月末に、本社を東京都中央区銀座2-7-17 ティファニー銀座ビル6階に移転予定)
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