AI搭載ERPの研究に特化
ERPは、会計、人事、製造、販売、情報共有といった企業活動の中心となる業務を統括管理するソフトウエアである。そのERPパッケージで、国内シェアナンバーワン、大手企業1200社超の導入実績を誇るワークスアプリケーションズが、今年2月、徳島市に研究所を新設した。所長の内田佳孝氏は、「2014年に発表した世界初のAI搭載ERP『HUE(ヒュー)』のクオリティを高め、企業の生産性の飛躍的な向上に寄与していくため、自然言語処理分野に特化した研究所の開設を考えました」とその目的を明快に語る。
「自然言語処理に関しては、例えばグーグルやアマゾンといった企業も技術開発を進めていますが、それはあくまでもコンシューマー向けの世界。『HUE』が相手にするエンタープライズは、複雑な慣習があったり、独自の専門用語が飛び交ったりで、開発のハードルが遥かに高いのです。事実、ERPはいまだに高精度のサジェストもリコメンドもされないような、正直いって〝使いづらい〞レベルを出ていません。そこを乗り越えるためには、ビジネスに特化した自然言語処理が必要になるのです」
現在、研究員は8名。ベース技術の研究開発から具体的な仕様の検討、言語リソース分析など、様々なレイヤーの任務に携わっている。技術顧問としてこの分野の研究の第一人者である松本裕治教授(奈良先端科学技術大学院大学)を迎えているところからも、革新的なERPで世界を変えていくという、同研究所の〝本気度〞がうかがえる。
ERPにおけるAI活用の研究開発が遅れた一因は、機械学習に必要な良質で大規模なデータを持つ会社や大学がなかったことにあった。その点、ワークス社は、全顧客がワンソースで使えるパッケージソフトを開発しており、企業経営にかかわる膨大なデータ群を有する唯一の会社だ。日本を代表する1200社以上の大手企業の豊富なデータを活用できることも、同研究所にとって大きなアドバンテージとなっている。
「まずは、専門用語が含まれた文章を正確に区切る技術を確立すること。研究過程からその技術をプロダクトに投入し、改善のサイクルを回していきます。中期的には、PCに向かわない例えばミーティングといった業務の効率化を実現したり、あるいは多忙な経営者も含めたスケジュール調整をこなす秘書の役回りを担ったりすることができるような、次世代『HUE』の研究開発も進めていきます。そうやって〝ムダな時間〞を削減できれば、そのぶんクリエイティブな仕事をする余裕が生まれるでしょう。全企業が週休3日制を実現できるような、今とはまったく違う働き方の提案も可能になるはず。そんな夢を描ける研究に、私自身、大きな魅力を感じているんですよ」
自分の研究成果が世に出る喜び
ムダな業務の効率化が目的のERPだけに、「単純に機械学習を適用しただけではダメで、我々自身が業務をよく理解して、『HUE』を進化させていく必要がある」と内田氏は話す。そのために「プロダクトサイドなどの話も聞き、それらを研究に生かす努力を怠らない」そうだ。当面、「5年以内に50名体制の確立」を目標に、人材の拡充を目指す。また、グローバルな研究開発体制の強化も課題に掲げる。「ワークス社の持つ海外拠点のうち、上海、シンガポール、インドは、AIを含む開発拠点に位置付けられています。徳島を中心にそれらが連携した、国境を越えた研究開発の仕組みを機能させていきたい」
ところで、研究所を徳島につくったのには、何かわけがあったのだろうか?
「NLP研究のメッカである関西圏にあり、優秀な人材が多いことが、主な理由です。都会のような通勤ストレスもなく、研究に没頭できるとてもいい環境を実現することができました。全国どこから来ても、気に入ってもらえると思いますよ」
同研究所で開発された技術をオープンソースで提供し、NLP研究の発展に貢献していきたいと話す。「研究所のミッションは、あくまでも〝アウトプット〞です。自分が開発にかかわった技術が、実際に世の中に出る。そのことに喜びを感じられる人に、来てほしいですね」。
うちだ・よしたか/高等専門学校でロボットコンテストに参加し、人工知能に興味を持つ。2000年、九州工業大学情報工学部に編入学。自然言語処理の分野で対話システムの研究を行い、04年、修士課程修了後、地元・徳島にあるジャストシステムに入社。約12年にわたり、自然言語処理の研究開発から商品化に携わる。16年7月、ワークスアプリケーションズに入社。
設立/2017年2月
代表者/所長 内田佳孝
従業員数/8名(2017年3月末現在)
所在地/徳島県徳島市東大工町1-9-1 徳島ファーストビル7階
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