人の知見+AIで業務の精度が向上
世界最大手の気象サービス事業者であるウェザーニューズは、独自で構築した観測インフラを活用した気象情報サービスを提供している。気象庁などから入手する気象データに加え、自前の気象観測衛星やレーダーなどでも情報を収集するほか、「サポーター」と呼ばれる一般個人から寄せられる情報も予報に活用。例えば、「ゲリラ雷雨」の予測では、サポーターのスマホから送られてくる雲の写真を画像解析して危険度を判定し、利用者にフィードバックする。
気象予測の精度はデータ量の多さがカギを握ることから、同社では10年以上前からインフラ構築に努めてきたが、近年では、情報解析などに人工知能(AI)の活用を進めている。同社AIイノベーションセンターの萩行正嗣氏は、その目的を「データの解析速度と気象の予報精度を高め、高品質な気象サービスを提供するため」と話す。「当社に寄せられる情報は増加の一途を辿っています。データが増えれば予測精度は向上しますが、データを人手で捌くことが困難になることが予想されたため、AIによる自動化の取り組みを進めてきました」
前述のゲリラ雷雨の予測では、AIにユーザーから寄せられた雲の写真を機械学習させた雲画像解析システムを開発してゲリラ雷雨の判定を自動化し、解析速度と予報精度の向上を実現。また、2016年から、天気予報の記事作成業務の一部に自然言語処理技術を活用したAIを導入している。これは、テレビ局が使用する天気予報原稿の一部をAIが自動作成するもの。それ以前は、社内の担当者が原稿を作成していたのに対し、観測データからAIが降水確率や
気温などの数値を引用して原稿を作成。担当者が衛星画像やレーダーを確認して概観を付記する仕組みだ。「AIは数値の引用を間違えないため、人手による数値の確認が不要になり、原稿作成時間の短縮や放送事故の防止につながっています」
〝かゆく〞なる前に手を打つAIが目標
AI導入で業務の一部が自動化されたことで、「タスクの2〜3割が削減でき、空いた時間を顧客とのより綿密なコミュニケーションに充てることが可能になった」と、萩行氏はその効果を説明、「今後はAI導入の取り組みをさらに進め、当社に寄せられる膨大な情報の中から、予測に必要な情報の取捨選択をAIが自ら判断できるレベルまで進化させたい」と力をこめる。
「気象予測は属人的な性格が強い分野です。従来は熟練予報士が培った知見が予報精度や顧客からの信頼獲得のカギを握っていました。例えば、AIが新人予報士の知見の醸成をサポートしたり、あるいは習得自体を代替できれば、予報士が熟練域に達する時間を短縮できるため、予報士はより高度でクリエイティブな業務に注力でき、様々なサービスの拡充や品質の向上が期待できるでしょう」 さらにAIイノベーションセンターでは、その先も見据えた研究を推進している。
「『かゆいところに手が届く』という言葉がありますが、〝かゆく〞なる前に手を打つAIが究極の理想。航海気象情報を提供する会社としてスタートした当社は、船舶からの海上気象データを活用して最適な航路や運航スピードの情報を約6000隻の船舶に提供していますが、将来的には、運航を司る船長のパーソナリティに対応できるAIの開発も視野に入れています。簡単にいえば、船長の声色や口調、動作から次の行動や要望を予測して、指示される前にアクションするAIです。そのため、音声認識技術の開発にも力を入れています」
現在、AIイノベーションセンターではリーダーの羽入拓朗氏を筆頭に、萩行氏ほか2名の専任スタッフが画像認識、自然言語処理、音声認識等の要素技術開発およびサービスへの実装を担っている。「今後は積極的にスタッフを拡充させていきたい」と羽入氏は語る。
「ひとくちに〝AI〞といって も画像認識、自然言語処理など、 分野は多岐にわたります。実際 の業務では、音声認識なども含 めた各技術の横断的な取り組み が不可欠。さらに当社の場合は そこに気象というテーマが加わ りますから、知識の吸収に貪欲 で、成長意欲の高い仲間に加わ ってほしいと思っています」
萩行正嗣
はんぎょう・まさつぐ/2008年、京都大学工学部電気電子工学科卒業。 14年、同大大学院情報学研究科知能情報学専攻博士後期課程修了。 黒橋・河原研究室で博士(情報学) 取得。同年4月、株式会社ウェザーニ ューズ入社。AIイノベーションセンタ ーに所属し、自然言語処理、機械学習を活用した業務改善、新価値創 造に取り組む一方、機械学習技術 の気象分野への応用に挑戦中。
設立/1986年6月
代表者/代表取締役社長 草開千仁
従業員数/764名(2016年5月末現在)
所在地/千葉県千葉市美浜区中瀬1-3 幕張テクノガーデン
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