「デクワス」が導く新しい出合い
サイジニア株式会社が開発した「デクワス」は、文字どおりユーザーが思いがけない掘り出し物に〝出くわす〞ためのレコメンデーションエンジンだ。
現在のレコメンデーションエンジンは「これを買った人はこれも買っています」と、一緒に購入された確率の高い順に商品をすすめるのが主流。そのため人気上位のアイテムばかりにレコメンドが偏るのが弱点だ。
例えば、映画『スターウォーズエピソード3』の関連商品をネットで購入した場合、視聴済みの『スターウォーズ』作品の広告がブラウザに表示される、という具合である。
一方「デクワス」は、閲覧や購買などユーザーの行動履歴を解析することで同じような趣味嗜好を持つ意外な仲間やコミュニティを導き、そこから「ユーザーの趣味嗜好に合っているのに本人は知らなかった」アイテムを紹介してくれる。そこには意外性があり、思いがけない新たなアイテムとの出合いがある。
同社の吉井伸一郎代表は、もともと北海道大学で人工生命や人工知能、複雑系の研究にあたっていた人物。しかし、特許文献の検索システムの開発に携わったことを機に「閲覧履歴パターンを分析することで、新しいかたちのレコメンドシステムが実現できるのでは?」との着想を得る。このアイデアを追求するため、吉井代表はいったんソフトバンクに転職する。だが時は、ソフトバンクがADSLのモデムを無料配布するなどして「Yahoo!BB」事業で一大攻勢をかけていた頃だ。結果、吉井代表も当該事業のバックアップに携わることになる。
「その当時、『複雑ネットワーク理論』の文献を読みました。複雑ネットワーク理論とは、簡単にいうと『知り合いを6人たどれば世界中の誰とでもつながれる』ことを説明できる理論です。これを応用すると大量のデータを効率よく解析できる。膨大な行動履歴データからレコメンドを導くことも可能ではないか。そんな研究テーマをもって北海道大学に戻りました」
サイジニアを創業したのは大学に戻って2年後のこと。論文は十分に評価された。次なる課題はレコメンドの精度を実社会で検証、ブラッシュアップしていくこと。いわば実証実験としての起業であった。
それから10年あまり。「技術だけでは会社は回らない。営業面では苦労した」といいながらも14年には東証マザーズ上場を果たすなど、マーケットの信頼を拡大してきた。現在は「デクワス」を中核技術とし、サイト内レコメンドシステムのほか、インターネット広告や画像解析のサービスなども展開中だ。
膨大なデータを蓄積できる強み
同社の創業メンバーは吉井代表の大学での教え子、あるいは研究仲間だ。総勢30名まで組織が成長した今は、そのうち7〜8名が研究開発にあたっている。京都大学で複雑ネットワークを研究していた者、証券会社でクオンツ業務を行っていた者など「トガった人材」が揃う。
「共通しているのは、私たちが扱う膨大なデータに魅力を感じていること。『デクワス』は様々なECサイトのなかにタグを設置して情報収集しているのですが、そこから月間500億クリック分のデータが集まってきます。データを蓄積する装置としてはかなりのもの。これをもとにまた様々なアイデアを試すことができるわけです」
最も新しいサービスは「デクワス・CAMERA」だ。欲しいアイテムの画像を送ると、類似するアイテムが購入できるECサイトへ誘導する。これなら商品名がわからず検索エンジンにキーワードを打ち込めないアイテムにもたどり着ける。
この技術を応用したアプリ「PASHALY(パシャリィ)」もリリースされた。Instagramのような画像中心のコミュニケーションが広く普及した昨今、「画像中心の新しいショッピング体験を提供しなければならない」との思いから開発された。「これまでは法人向けサービスが中心でしたが『PASHALY』のような自社サービスをスケールさせていくことが、近未来の課題だと思っています。〝誰もが使うサービス〞の種を、今後も探し続けたいですね」
吉井 伸一郎
よしい・しんいちろう/1998年、北海道大学大学院修了後、日本学術振興会特別研究員、現ソフトバンク株式会社情報システム本部研究開発センター長などを経て、2004年から北海道大学大学院情報工学研究科複雑系工学講座助教授。複雑ネットワーク理論や機械学習を活用したビッグデータ解析技術は日米で複数の特許を取得。07年にサイジニア株式会社を立ち上げ、ネット広告事業などを展開する。博士(工学)。
設立/2007年4月4日
代表者/代表取締役CEO吉井伸一郎
従業員数/29名(2018年6月末現在)
所在地/東京都港区浜松町1-22-5KDX浜松町センタービル7階
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