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研究開発費から見る日本の研究の今

研究開発費から見る日本の研究の今

前回の記事(※1本目リンク入る?)では、アカデミア(大学・研究所など)における研究職と民間企業における研究職との基本的な違いをご紹介しました。
続いて本記事では、「研究開発費」を軸に、より具体的かつグローバルな視点から、日本の研究開発環境の今を考察します。
日本企業の2020年度研究開発費計画額上位ランキングなどもあわせてご紹介しますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

 

【目次】
1-研究開発費から見る、日本と主要国との違い
┗1-1 研究開発費の国家総額での比較
┗1-2 部門別の研究開発費による比較
2-いずれの主要国も、研究開発費の多くを「企業」部門が占めている
3-研究開発への投資に意欲的な日本企業とは
┗3-1研究開発費(計画額)の大きい日本企業TOP10
┗3-2「売上高比率」から見えてくること
4-まとめ
 

研究開発費から見る、日本と主要国との違い

『科学技術指標2020』(出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2020、調査資料-295、2020年8月)をもとに、まずは下記の2つの要素から、日本と主要国とを比較してみましょう。
 

■研究開発費の国家総額による比較
まずは、研究開発費の国家総額による比較です。
2018年の日本の研究開発費総額は19.5兆円であり、対前年比2.5%増。2年連続の増加となっており、過去最高額を記録しています。
なお、研究開発費総額が世界第1位のアメリカは60.7兆円(対前年比5.1%増)、世界第2位の中国は58.0兆円(対前年比10.3%増)を記録。
日本はこの2つの国に次ぐ世界第3位の規模であることがわかります。

主要国の中で最も高い成長率となっているのは中国。総額で世界第1位のアメリカに迫る勢いです。その他、ドイツ、韓国なども長期的に増額傾向であり、2018年、ドイツは14.8兆円(対前年比4.4%増)、韓国は10.3兆円(対前年比8.1%増)を記録しています。
 

■部門別の研究開発費による比較
続いて、2018年の日本の研究開発費を「企業」「大学」の部門別で主要国と比較してみましょう。

「企業」部門における日本の研究開発費は、中国の44.9兆円、アメリカの44.2兆円に次ぐ、世界第3位の14.2兆円。また、「大学」部門における日本の研究開発費は、アメリカの7.8兆円、中国の4.3兆円、ドイツの2.6兆円に次ぐ、世界第4位の2.1兆円となっています。
 

いずれの主要国も、研究開発費の多くを「企業」が占めている

上記のデータからわかることは、いずれの主要国においても、研究開発費の大部分を「企業」部門が占めているということ。
割合にして、日本は79.4%。その他の主要国においても、アメリカは72.8%、中国は77.4%が「企業」部門の研究開発費となっています。

なお、2000年を1とした場合の部門別研究開発費(実質額)の2018年の指数を見てみると、「企業」部門が伸びているのは中国、韓国、日本。「大学」部門が伸びている国は、アメリカ、ドイツ。いずれの部門においても、近年は中国の伸びが著しいことが明らかです。
一方で、日本の「大学」部門の伸びが主要国の中で最も小さいこともデータから見えてきます。

ちなみに、日本における研究者の総数は2019年3月31日現在で約87.5万人(男性:約72万人、女性:約15.5万人)ですので、研究開発費の国家増額を研究者数で割ると、1人当たりの研究開発費は約2232万円(対前年度比1.6%増)ということになります。
 

研究開発への投資に意欲的な日本企業とは

では、実際に研究開発への投資に意欲的な日本企業をデータから見てみましょう。
日刊工業新聞社が実施している『研究開発(R&D)アンケート』をもとに、まずは2020年度の研究開発費計画額TOP10の企業をご紹介します。
 

■研究開発費(計画額)の大きい日本企業TOP10
第1位 トヨタ自動車 11,000(売上高比率4.6%)
第2位 キヤノン 2,700(売上高比率8.8%)
第3位 日立製作所 2,640(売上高比率3.7%)
第4位 アステラス製薬 2,390(売上高比率18.6%)
第5位 第一三共 2,280(売上高比率23.5%)
第6位 大塚HD 2,200(売上高比率15.2%)
第7位 三菱電機 1,900(売上高比率4.6%)
第8位 エーザイ 1,655(売上高比率23.0%)
第9位 東芝 1,600(売上高比率5.0%)
第10位 三菱重工業 1,400(売上高比率3.7%)
※単位:億円
 

2020年度の企業開発費(計画額)の企業別順位では、トヨタ自動車が1兆1000億円で19年連続の首位を記録。
全ての企業の中で唯一、1兆円以上を研究開発費に投じており、第2位のキヤノンの実に4倍強にもなります。
自動運転技術の開発など、大きな変革期を迎えている自動車業界のリーディングカンパニーとして、トヨタ自動車がいかに研究開発を重視しているかがわかる指標と言えるのではないでしょうか。
 

■「売上高比率」から見えてくること
とはいえ、上記ランキングを単に総額だけで見るのではなく、「売上高比率」から見てみると、また違った印象を受けるのではないでしょうか。
注目すべきは、製薬企業。第4位のアステラス製薬、第5位の第一三共、第6位の大塚HD、第8位のエーザイと、上位10社の内約半数が製薬企業であり、またそれらの企業は研究開発費の売上高比率が約15%~23%と、他の業界を圧倒しています。

背景にあるのは、新薬開発の難易度の上昇。
というのも、厚生労働省の発表している資料によれば、新薬開発の成功確率は過去10年で約半分に低下(10年前:1.3万分の1→現在:2.5万分の1)。それに伴い、医薬品の研究開発費も年々増加傾向にあり、2004年には621億円だったものが、2017年には1,414億円まで増額しています。

加えて、一般的に医薬品の研究開発には10年以上の長い期間を要することも大きな要因のひとつ。それだけ長い期間をかけ、成功確率の低い新薬開発に取り組む製薬会社には、特許権で守られた高い利益率が保証されており、そこで得た利益を次の開発に投資し続けられる基盤があるのです。
 

まとめ

今回は「研究開発費」から日本の研究の今を考察してみましたが、以上から、2020年において多くの企業が研究開発への投資に意欲的であることがお分かりいただけたと思います。

特に製薬企業においては、持続的成長へ向けた積極的な投資を計画している状況と言えるでしょう。

とはいえ、新型コロナウイルス感染症の影響下、各企業の事業計画や研究開発環境が日々変化し続けていることも事実です。

研究職を志す方々にとって何よりも大切なことは、常に冷静な視点に立ち、自らの研究領域とそのニーズを捉え、自らのキャリアを選択していくことではないでしょうか。

テクノロジストマガジンでは、研究職としてのキャリアを歩んでいる方々、そしてこれから研究職を志す方々にとって参考になる情報を発信できるよう、これからも多角的な視点から、日本の研究、そして研究職の今を追っていきたいと思っています。

 

 

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