機械学習と深層学習は、どちらもAIの実現に欠かせない重要な分析手法です。機械学習・深層学習ともにあらゆるシーンで活用され、今後もますます進化することから、これらのエンジニアは、転職市場でも一層ニーズが高まります。特に機械学習と深層学習は目的や手段によって使い分けが必要なので、それぞれの理解が深いと転職に有利となります。
本記事では、AI・機械学習・深層学習の基礎をあらためて確認すると共に、ビジネスや社会で実装されている活用法などを解説します。
AIと深層学習・機械学習の関係
同時に語られることが多いAIと深層学習 、機械学習ですが、AIを実現するためのデータ分析技術のひとつが機械学習で、機械学習の代表的な分析手法が深層学習(ディープラーニング)です。それぞれをあらためておさらいしておきましょう。
■AIとは
「AI(Artificial Intelligence)」は人工知能と呼ばれ、人間と同様の知覚や知性、ふるまいを、コンピュータで人工的に再現するものという意味合いです。「人間のような知能を持ったコンピュータ」という理解で間違いではないものの、明確に定義されていないのが現状です。
AIは、人間と同じく経験から学び、新たな入力に順応することで柔軟にタスクを実行します。スマートスピーカーやスマート家電、ロボット、チャットボット、自動運転などの技術が、AIの代表的な事例となります。
■機械学習とは
「機械学習(Machine Learning)」とは、与えられたデータ群に何らかのルールやパターンを発見して、それに基づいて未知のものを予測、判断する技術のことです。複数のアルゴリズムを組み合わせて処理を学習することで、特定のタスクを高いスキルでこなせるようになります。コンピュータに過去のデータを分析させ、自律的に認識したパターン・経験則をあてはめることで、未知のデータを予測できます。
機械学習は、AIのひとつの技術として、主に予測や判断、分類などの分野で活用されています。
■機械学習の分類
機械学習は、主に「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」という、3種類の枠組みに分けて考えることができます。
教師あり学習は、学習データを与える際に、その結果=正解も一緒に与えます。モデルは、「このような特徴の時にこの結果になった」と関係性を学習します。システムの不正行為の検出や、おすすめ製品のパーソナライズなど、正解・不正解が明確な問題の解決に適しています。
教師なし学習は、学習データに正解を与えないで学習させる手法です。「このデータとこのデータは良く似ているが、これは似ていない」といった、特徴分析を行いながら、類似データのクラスタリングなどを行います。そのため、異常の判別やデータの分類などに適しています。
強化学習は、目的に基づいて、学習のプロセスもコンピュータ自身が強化していく技術です。最も良い報酬を得られるように、学習内容を自動的に改善していきます。「ある行動をしたときに、どのような結果になったか」を繰り返し学習し、良い結果になればプラス点、悪ければマイナス点が与えられ、得点を最大にする行動パターンを導きます。囲碁や将棋のAI、自動運転などに使われます。
■深層学習(ディープラーニング)とは
「深層学習 (Deep Learning)」は、機械学習の1手法であるニューラルネットワークという分析手法を活用して、高精度の分析や学習を行う方法です。入力に対して重みをつけて出力を返す「ニューロン」を、多層に積み重ねたのがニューラルネットワークで、何層も重ねることでより精度の高い分析が可能となります。データが各層で処理されていく中でその特徴が判断され、人間がうまく捉えられない抽象的な問題も解決できます。そのため、画像認識、音声処理、言語処理といった分野で大きな成果を上げています。
■機械学習と深層学習の違い
前述したとおり、深層学習は機械学習の分析手法のひとつです。大きな違いは、機械学習は人間がデータの特徴を判断するのに対し、深層学習では、機械が判断します。機械学習は、学習目的や内容を人間が設定することで、学習と分析の効率化を図ります。一方の深層学習は、何を学ぶべきかも機械が判断します。そのため、抽象的な問題解決の効率化に適しています。
また、機械学習で用いるアルゴリズムは「教師あり」「教師なし」「強化学習」の3つに分類されるのに対し、深層学習では3つ全てに応用が可能です。
こうしてみると、深層学習の方が高性能に捉えられがちですが、ニューラルネットワークのトレーニングには大量のデータが必要です。また、学習するのに時間がかかり、高性能のコンピュータが必要となるのでコストもかかります。一方の機械学習は、スピーディに低コストで結果を出せる利点があります。それぞれにメリット・デメリットがあるので、目的や手段に応じて使い分けるようにしましょう。
■機械学習・深層学習が適しているシーン
機械学習は、より早く結果を出したい場合や、分析の目的が明確な場合などに適しています。また、教師ありで行うなど、アルゴリズムが決まっている場合は、その種類によって深層学習よりも少ないデータで対応できることもあります。
一方、複雑なプロジェクトで、高度な分析が必要な場合は、深層学習を用いるようにしましょう。画像内のオブジェクト認識や、手書き文字の判別、音声認識、翻訳などは、大量のデータとある程度の時間を要するものの、ディープラーニングが適しています。
深層学習の仕組みと注目されている理由
高度な分析が可能な深層学習の仕組みを、あらためて確認しておきましょう。
■深層学習とニューラルネットワーク
深層学習のベースとなるニューラルネットワークは、人間の脳のしくみから着想を得て、ニューロンを数理モデル化したものを多重に組み合わせたものです。ニューラルネットワークに入力されたデータを、各層で判断・分析し、分類や識別のためのパターン学習を行います。多くの層を通過し、施行回数やデータの量が多いほど学習の正確度が上がって、精度の高いアウトプットになります。複雑な多重構造を備えることで、画像認証などでは、人間の脳を超える識別ができるようになっています。
■深層学習が注目されている背景
ディープラーニングでは、データを大量処理する必要があるものの、サーバーの性能がレベルアップしたことで、学習速度が向上しています。そのため、画像認証など一部の分野で、人間の脳を上回る処理能力を持つようになり、一層注目を集めるようになりました。
深層学習が活用されている分野
ここからは、深層学習が社会や私たちの生活で活かされている事例を紹介します。
■画像処理技術
画像処理技術・画像認識は、深層学習が得意とする分野のひとつです。スマホカメラの顔認識機能や、医療の現場における患部・検査画像から病気の種類や症状を特定する技術なども、ディープラーニングによるものです。このほか、製造業や農業、防犯など、幅広い分野で活用されています。
■音声認識
音声認識も、深層学習の進化により多くの業界で活用されています。製造現場で異常音を検知するソリューションは、今まで人が保守点検を行っていた代わりとなり、人的ミスを減らし保守の精度を高めるほか、コスト削減を実現します。
■自然言語処理
自然言語処理とは、手書き文字や会話などの文字情報を処理する技術のことです。検索エンジンや翻訳機能、スマートスピーカー、AIチャットボットなどがこの技術を活用した製品・サービスです。
■時系列データ予測
膨大なビッグデータを処理してパターンを学習することで、コンピュータは未来の時系列の情報も、高い精度で予測できるようになりました。小売店や飲食店では、時間や天候などによる需要予測をAIが行い、自動発注できるシステムを導入することで、ヒューマンエラーや店舗による差を減らすことに成功しています。
■自動運転
自動運転も、ディープラーニングの活用事例のひとつです。標識、歩行者、信号、周囲の車の動きなどをセンサーで取得し、それらの膨大なデータをもとに、どう運転するかをディープラーニングで学習させます。自動運転は国も推奨する政策のひとつで、自動車メーカーやベンチャーなどによる開発が進み、自動レベルが高い運転の実装も、遠くない未来に起こりそうです。
■医療診断
医療診断の分野では、深層学習により過去の診断画像や健康診断の数値、各種の論文やデータ報告などの医療データを複合的に解析することで、病気の早期発見と適切な治療方法の提案なども実現しています。ディープラーニングの進化に伴い、医師の負担軽減や診断の迅速化など、医療現場の業務効率化、働き方改革などが進みそうです。
■在庫管理
製造現場における画像認識を活用した在庫管理のほか、顧客データをディープラーニングが解析して、天候や季節、曜日などで変わるパターンや傾向を見つけることで、適切な発注が可能となります。これにより、過剰在庫を抱えることがなくなり、保管場所や人的リソースの最適化を図ることができます。
■サイバーセキュリティ
マルウェアの巧妙化、複雑化が進み、近年のインターネット利用の増加やテレワークの常態化もあって、企業では自社のネットワークだけではなく、PC・モバイルなどのエンドポイントも保護するエンドポイントセキュリティの考え方が主流となっています。深層学習を活用したエンドポイントセキュリティのソリューションでは、マルウェアやサイバー攻撃などの脅威を検知・防御できるようになります。24時間監視が可能となり、自動で対処できるシステムもあるので、セキュリティレベルを向上させることができます。
機械学習・深層学習を使い分けられるスキルを身につけよう
機械学習と深層学習は、それぞれを別のものとして捉えるのではなく、AIを実装するための手法として、目的や手段に応じて使い分けるのが正しい活用方法です。画像認識や自動運転、時系列データ予測などの技術は、あらゆる業界で実装されており、サーバーの処理能力の向上やディープラーニング自体の進化により、今後もますます多くの分野で導入されると考えられます。
それに伴い、機械学習や深層学習の知識やスキルがあり、使い分けができる人材は、転職市場でもニーズが高まると予測されます。さまざまな分野で活躍できる場が多いので、自分が好きな業界や関わりたいソリューション開発などがあるなら、専門性を高めておくとよいでしょう。
まとめ
AIの技術である<機械学習やディープラーニングは、今後もますますビジネス需要の拡大が予測され、ぜひとも学んでおきたい手法です。それぞれ目的や手段によって使い分けが必要なので、AI関連の分野で就職・転職を考えているなら、両方の知識やスキルを習得しておくようにしましょう。
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