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【研究部門最前線Vol.24】多様な“音”に価値を見いだし、社会に貢献。音×AIを駆使した革新的技術を創出する

多様な“音”に価値を見いだし、社会に貢献。
音×AIを駆使した革新的技術を創出する

Hmcomm株式会社

増田氏らR&Dチームの面々。研究員はもちろん、AI開発エンジニアにも若い力が集まって事業拡大を支える。
熊本AIラボではUターン、Iターン人材も積極的に採用しているという

音から価値をつくり社会の課題を解決

「音×AI」をコンセプトに様々なソリューションを提案するHmcomm。産業技術総合研究所発のベンチャーとして2012年に起業、主に「音声認識」「異音検知」の2領域で事業を展開してきた。

音声認識はコールセンターに向けたソリューション「VContact」を提供。異音検知では「FAST–D」というプラットフォームを開発し、工場や警備、飛行機整備などの分野で協業を進め、サービス化に向けたPoC(概念実証)を実施している。

研究員の増田有一郎氏が取り組むのは、異音検知の技術を用いた「豚の音声検知システム」の開発だ。近年、畜産業では家畜の罹患による殺処分、出荷の遅れが急増し、農家の経営を圧迫しているという。また、高齢化が進む農業では、より少人数で効率的なワークフローの確立も喫緊の課題だ。

「音から価値を創出し、革新的サービスを提供することにより社会に貢献する」をビジョンに掲げる同社は、この社会的課題に挑むべく、FAST–Dをベースにしたサービスの開発を目指している。

「私たちがフォーカスしたのは豚です。養豚農家はせき、くしゃみの音から呼吸器系の病気への罹患を判断してきましたが、この音は熟練者でなければ聞き分けることができませんでした。そこで、FAST–DでAIに豚の異常音を学習させ、豚の病気の早期発見につなげよう、というわけです」(増田氏)

増田氏は宮崎県の豚舎で豚の鳴き声をマイクによって集音し、農家や大学研究者の知見と合わせてAIに学習させ、熟練者と同等以上のレベルで早期発見を目指す。また、豚が発する音によって母豚の発情兆候をチェックしたり、哺乳回数を測定したりすることで、きめ細かい養豚の実現につなげていく。

「人間の可聴領域は20Hz〜2万Hz。それ以外の周波数の特徴を解析することで、熟練者以上のレベルで豚の状態を把握できる可能性があります」増田氏のプロジェクトチームはPoCを着実に進め、20年中にはAIサービスとしての販売を目指している。

東京と熊本ラボの2拠点で研究開発

「音のデータを解析するためにはインプットが重要です。私のプロジェクトでいうと豚のせき、くしゃみ音を収集する作業ですね。豚舎に通い詰めてスマホの専用アプリでひたすら集音する。プロダクトとして結実させるためには、ある意味泥臭い取り組みがなければ」と語る増田氏。

入社1年ながら同プロジェクトを主導しつつ、異音検知プラットフォームの機能向上を目指した開発も進めている。

研究員は個々にプロジェクトを担当し、開発プロセスで得られた知見をFAST–Dにフィードバックするというサイクルを回す。AIベンチャーの中でも群を抜く20名強の社内R&D専門チームが同社の強みだ。「私もデータサイエンスが専門ですが、入社前は音についての研究実績はありませんでした。R&Dチームのスタッフも同様で、信号処理や物理など様々なバックボーンを持つ研究員が集まってきています」

R&Dチームは東京本社に研究拠点を構え、18年に設立した熊本AIラボでもプロダクト開発を行っている。

増田氏は故郷の熊本でプロジェクトを進めつつ、月に1週間は東京に滞在。R&Dチームとプラットフォームのブラッシュアップを進める。同社は社員の事情に応じて2拠点勤務をバックアップし、社内で一気通貫したソリューション開発体制を築いてきた。

「のんびりとした時間が流れる中、じっくり開発に向き合える熊本、社外の勉強会なども多く、研究心を刺激する東京。どちらにもよさがあります」

人と機械の融合を目指し、多彩な人材の採用に注力する同社。「音×AI」という軸はぶれないいが、画像解析を加えた新たなアプローチでのプロダクト開発、社会実装も視野に入れる。増田氏のように、音声研究の実績がなくても積極的に採用し、R&Dはもちろん技術開発・保守も強化していく構えだ。

「豚から牛の異音検知への横展開、家庭で犬や猫の心音を検知し、リモート診断を可能にするシステムなど、まだまだやりたいことが広がっています。『音から価値を創出する』先鋭的な集団の中で力を発揮し、社会に貢献していきたいですね」

豚の音声検知システムは「豚の呼吸器系疾病の兆しの早期検知」「発情兆候の検知」「哺乳回数の測定」を実現する。豚の鳴き声を解析し、ディープラーニングによる異音検知プラットフォーム「FAST-D」を活用してAIに学習させる。これにより、熟練者と同等以上のレベルで異音の検知ができるという仕組みだ。共同研究を進める宮崎大学のフィールドなどで母豚、肥育豚の音声を収集して実証実験を実施。2020年中にはAIサービスとしてリリースを予定している

R&Dセンター(熊本AIラボ) 研究員
増田有一郎

ますだ・ゆういちろう/防衛大学校理工学専攻を病気による原因で自主退学。地元の熊本に戻り、熊本学園大学に再入学する。大学院に進み、数理経済を専攻。AI、データサイエンスを学び、在学中にAI企業である株式会社スカイディスクでのインターンを経験。大学院修了後、約1年間の半導体会社勤務を経て、2018年10月、Hmcomm株式会社に入社。本社R&Dセンターと熊本AIラボを兼務しながら研究開発業務に従事している。
Hmcomm株式会社
設立/2012年7月24日
従業員数/45名(2019年11月末現在)
所在地/東京都港区芝大門2-11-1 富士ビル 2階
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