企業経営も男女機会均等であるべき
私は、一般社団法人「技術同友会」という団体の代表幹事を務めている。
ひとことで言えば、技術系の経営者を中心とした集まりで、およそ半世紀前の1972年に設立された。
会員は、東証一部上場企業の社長ないしその経験者に、大学の総長や官界からも元事務次官などが加わる構成で、名誉会員なども含めて総勢130名ほどの組織になっている。
産・学・官の科学技術に携わる有識者の交流を促進するとともに、「科学技術政策、科学技術を基本とする社会経済政策等に関する調査研究・提言」「時代の要請に応える科学技術のあり方についての調査研究」「科学技術に関連する諸問題についての討議」を柱に活動している。
近年、日本企業に技術出身のトップが増えてきた。
それは喜ばしいことで、この会の趣旨にもかなう。
では、日本の産業界に次に足りないものは何かといえば、それは“女性進出”だと私は考える。
東証一部上場企業に、女性で技術系出身の社長というのは、いまだに皆無なのである。
海外勤務を経験し、数多くの国際会議を見てきた身からすると、役員会議はほとんど男ばかりという光景は、異様以外の何ものでもない。
人口の半分は女性なのだから、その発想や意見がストレートに反映されないというのは、会社組織にとってもマイナスであるはずだ。
そうした状況を少しでも動かしたいという思いから、まず同友会のルールを変更し、女性に限って社長ではなく役員であれば会員になれるようにした。ようやく10名ほどが名を連ねるようになったところである。
加えて、2014年には、女性技術者・研究者の育成において顕著な成果を上げた個人の方々の功績をたたえる「女性技術者育成功労賞」を創設した。
過去6年間の受賞者は計30名で、19年は、内閣府、経済産業省、厚生労働省、国土交通省の後援もいただいている。
いまだ“地道な活動”の域を出ないかもしれないが、こうしたことを通じて、「指導的地位に占める女性の割合の向上」、なかんずく女性技術者の育成、地位向上に貢献したいと考えている。
“女性つながり”で、面白い話を紹介しておこう。
かつて私が社長を務めたNTTドコモに「NTTドコモアグリガール」が誕生したのは、14年のことだ。
「アグリガール」というのは、“農業をターゲットにした女性営業メンバー”のことで、当初2名の社員からスタートした。
具体的にはスマートフォンやタブレットを活用した農業のICT化、例えば水田やビニールハウスの遠隔監視システムの実用化などに取り組んだのだが、瞬く間に全国の支社・支店に活動が広がり、100名を大きく超える所帯になった。
ちなみに、これは正式な社内組織ではなく、参加は挙手方式である。
高齢化、担い手不足に悩む農業のICTに対する潜在ニーズを掘り起こした試みは、やがて一次産業の枠を超え、地域の抱える様々な課題の解決に挑戦する「IoTデザインガール」に“昇格”した。
17年には、総務省の「地域IoT官民ネット」のプロジェクトに指定され、企業や団体を超えて、日本でIoTの普及に取り組む女性を育成する場となった。
目指すのは、「“社会課題に対して、IoTやAIなどの先進技術を活用して、どんなことができるか?”をデザインし、ストーリーを組み上げてわかりやすくつたえる女性!」「企業や自治体をつなげて、新たな価値を創出する女性!」である。
言葉だけではない“女性活躍”の、これからが楽しみだ。
1962年、東京大学工学部電気工学科卒業後、日本電信電話公社入社。
78年、米国マサチューセッツ工科大学経営学部修士コース修了。81年、東京大学にて工学博士号取得。
NTTアメリカ社長、日本電信電話副社長などを経て、98年、NTTドコモ社長に就任。
その後、文部科学省宇宙開発委員会委員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事長を歴任。 17年4月、旭日重光章を受章。
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