自分の〝分身〞をAIでつくる
誰しも一度は口にしたことがあるだろう、「自分がもう1人いれば……」。そんな世界が、現実になろうとしている。
株式会社オルツが開発中のP.A.I.(パーソナル人工知能)「al+(オルツ)」は、人工知能に人の仕事を代行させる試みの最先端をゆく。業務単位でAIに任せるのではなく、個人の〝人格〞をクラウド上でデジタル化。その分身(アバター)が本人に代わってSNSを更新、メールをやりとり、スケジュールを調整する、というイメージである。ゆえに、iPhone搭載の「siri」などに代表されるパーソナルアシスタントとは似て非なるもの。「いちいち命令する必要もなく、丸ごと自分の仕事をお任せできるAIを目指しています」と同社社長の米倉千貴は言う。
アバターをつくるにあたっては、クラウド上にあるシステムがユーザーの個人情報を取得する。SNS上の投稿やメールの内容、それが誰に向けたもので、いつどこで発信されたものなのか。取れる限りのデジタルデータをP.A.I.に学習させる。「同じ質問に対する同じ答えでも、誰を相手にするかでふさわしい答え方が変わる。そこまでP.A.I.で再現します」。一般的に、人工知能による自動化は定型業務が中心だが、「al+」の場合は「過去にその人がやったことのある業務すべて」が対象。本人のアバターというからには、そうでなければならないのだ。
AIであっても本人同様の信頼
オルツ創業前に立ち上げた会社で「1人でできた仕事を10人でやれば、売り上げも10倍になる」と考えた米倉氏。しかし実際は、様々な間接業務に忙殺された。「しかも毎回聞かれることは同じ。だったらbotでいいだろう」と思ったことが「al+」誕生のきっかけだ。
過去には社員からの問い合わせに自動回答するチャットbotをつくり社員と会話していたことも。難なくやり取りできたが、社員に種明かしをするとまた米倉氏のもとに直接尋ねにくるようになったという。もっともそれは「botは信用できない」という思い込みがあったからにすぎない。アバターが本人同様に信頼できるものとして扱われる時代を同社は見据える。
一つの事例として、米倉氏は「カメラアプリの『snow』で自らの顔写真を加工する女の子」を挙げてくれた。
「本人とのギャップがすごいですが(笑)、彼女らはそれを本人写真としてネット上にアップし、受け手も許容してコミュニケーションしています。しかし実際はまだ、多くの人が実在の人間しか信用したくないと考えている。僕がやりたいのは、自分のアバターを誰もが容認する世界の実現です。これから先、アバターが本人に代わって何倍もの働きをするようになるには、それを当たり前にしないと」
現在、スタッフの3分の2がエンジニアで、多くがリモートワークで働いている。次世代AIの最先端を追求する環境とあって、バックグラウンドは研究寄りだ。今、AI人材は引く手あまた。同社の何が彼らをひきつけているのか。
「過去、別のAI系ベンチャーから当社に移ってきたインターンの学生がいました。彼に聞くと、AIといってもビッグデータの処理など決められた仕事が多かったというのです。つまりすぐに成果が見えないとおかしい仕事。しかし当社の場合は、次世代AIを想定した研究をすることに焦点を当てている。そこにこだわって仕事をしてみたい人に向いています」
資金調達は順調。次世代AIに期待する大手企業からの引き合いも多い。しかし「まだパーソナルアシスタントとパーソナルAIがごっちゃにされる」きらいもあるという。「これから先、グーグルホームやアマゾン・エコーなどが普及し、パーソナルアシスタントがより日常的なものになっていきます。その時〝本人のコピー〞であるパーソナルAIとの違いがわかりやすくなり、理解が急速に進んでいくと思います」
米倉 千貴
よねくら・かずたか/愛知大学在学中に株式会社メディアドゥホールディングスの経営に参加。2001年、同社取締役就任。04年に独立。14年、株式会社未来少年を年商15億円まで成長させた後に、全事業をバイアウト。同年11月に株式会社オルツを設立し、代表取締役就任。「パーソナル人工知能」のジャンルで革新的な提案を行い、人工知能の明日を担う存在として注目されている。
設立/2014年11月
本社/東京都千代田区東神田3-1-2 ユニゾ東神田三丁目ビル 8階
TECH LAB./東京都江東区青海2-7-4 the SOHO#1134
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